第226話 王位継承争い

 ローダン王国の次期国王は誰なのか。

 現国王は病を患っており、どうやらもう長くはないらしい。そのため、サリーナ姫とアドウェル王子のどちらかが次の国王としてこの国を治めていくことになる。


 ……まあ、普通に考えたらサリーナ姫だよな。

 アドウェル王子は発言がちょっとアレな感じだし。


 実際、国民のために農業をやろうと具体的な動きを見せているサリーナ姫に対し、アドウェル王子の方はほとんどノープランに見える。周りの騎士たちの困惑ぶりを見てもそれは明らかだった。


 順当にいけば、長男であるアドウェル王子が王位継承序列の第一位ってことになるのだろうけど……そう素直にいくだろうか。



 結局、アドウェル王子とサリーナ姫とのにらみ合いは十分ほど続き、最終的にはアドウェル王子がその場を立ち去ることで終了。

 だが、この国から出ていけという王子の言葉に揺らぎはなく、俺たちは困り果てていた。


「兄の話など聞く必要はありません」


 サリーナ姫はそう言ってくれたが、アドウェル王子に肩入れをする派閥の妨害工作が出てくるのは明白だった。

 とりあえず、俺たちは場所を城内の応接室――初めてサリーナ姫と会談した場所へと移して、施設園芸農場の説明を始める。


「管理は大変ですが、その分、環境に左右されずに農業が可能です」

「屋内での作物栽培……そのような発想はありませんでしたね」


 こちらの提案を興味深げに聞き入るサリーナ姫。


「資材や職人の数に不安があるようでしたら、我々の方で用意もできますので」

「ありがとうございます」


 ライマル商会からの全面バックアップも約束され、いよいよローダン王国での農業が現実味を帯びてきた。

 となると、やはり問題はアドウェル王子になる。

 先ほどまでのやりとりを見る限り、彼が農業を妨害する主な理由は……これの成功によってサリーナ姫へ国民の支持が集中することを避けようとしているのだろう。

 今のアドウェル王子をローダンの国民がどう見るか――これに関しては、騎士たちのリアクションがもっとも分かりやすいんじゃないかな。あの様子だと、王子が国益のために政策を打ち出した経験はなさそうだし、評価は低そうだ。


 なので、今さらサリーナ姫の妨害をしたところで意味はないように思われる。むしろ彼女に協力して農業推進派に回った方が支持を得られそうなものだが。

 恐らく、そうした助言をしてくれる腹心の部下がいなかったのか……いや、あの性格を考慮すると、他人の助言を素直に聞くとも思えないな。


「いやぁ、なんだかワクワクしてきましたな」

「このローダンの長い歴史を紐解いても、自国で農作物を栽培するなど前代未聞……これが成功すれば、国民は大喜びですぞ」

「えぇ。頑張りましょうね」


 ケビンさんを含む護衛の騎士たちも、この国で農業ができる可能性を示されてテンションが上がっているようだ。提案した側である俺たちとしても、あそこまで喜んでもらえるなら嬉しいし、絶対に成功させようって意欲が湧いてくる。


「それでは、詳しい場所について――うん?」


 騎士のひとりが施設の場所となる候補地へ俺たちを案内しようとした時だった。

 彼の視線は偶然窓の外へと向けられており、そこで何かを発見したようだ。


「あれは……」

「どうかしました?」

「い、いえ……ただ、周辺の警戒任務に出ているはずの騎士たちが外にいたような気がして」

「何?」


 護衛騎士の中で最年長の男性が、真相を確かめるため窓に近寄る。


「む? 本当だ……何かあったのか?」


 どうやら、外ではこれまでにない事態が起きているらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る