第224話 説得

「バカな。このローダンの地で農業などできるはずがない」


 断言するローダン王国の騎士。

 ただ、彼がそう思っても仕方がないくらい、ここの環境は過酷そのもの――けど、それを跳ね返せるだけの可能性だって、十分残っていたのだ。


「我々の用意したプランならば、この国でも農業は可能です。そうなれば、この国の未来にとっても大きなプラスになるはずです」

「ぐっ……」


 俺が真剣にそう訴えると、騎士たちはたじろぐ。さらに、「彼の話を聞くことをオススメする」とグレゴリーさんがプッシュしてくれたおかげで、彼らは大きく揺らぐ。


「話を聞くくらいであれば犯罪でも何でもない! そもそも、彼らはこのローダン王国を救おうとしてくれているのだぞ」


 さらに、トドメとばかりにケビンさんが畳みかける。

 これが決定打となった。

 騎士の中でも最年長と思われる男性が、


「ならば、まずは私が話を聞こう」


 とチャンスをくれた。

 しかし、これはこの国にとって重大な話となるため、場所を宿屋から騎士団の詰め所へと変えて行うことになったのだった。



 ローダン王国騎士団詰め所。


 その一室で、俺たちとグレゴリーさん騎士たちにプラン説明していく。

 温室を利用した施設園芸農業――この計画を聞いた当初は、「本当にそんなことができるのか」と疑いをもたれていたが、グレゴリーさんの手助けもあり、具体的な案を提示することで解消する。


「……なるほど。確かに面白い試みと言えるな」

「そ、それじゃあ――」

「だが、姫様に合わせるわけにはいかん」

「えっ!?」


 いい流れで話が進んでいると思いきや、強制退去の姿勢は変わらなかった。

 ――しかし、騎士たちの態度は明らかに先ほどまでと違う。

 こう、なんていうか……「言いたいことを言えずに葛藤している」――少なくとも俺の瞳には彼らの態度がそう映った。


「今回の退去命令……指示を出されたのは誰なんだ?」


 落ち着いた口調で、グレゴリーさんが問う。

 当然だが、俺たちの追放は彼らの独断によるものではない。裏でそうするように指示を出した存在がいるはずだ。


「そ、それは……」


 言い淀む騎士たちを見ていると、なんとなく黒幕の正体が分かってきた。

 恐らく、騎士団長よりもさらに上の存在――それこそ、王族関係者クラスがこの件に関与しているらしい。

 あくまでも推測だが……農業成功を阻止しようと動く者といえばそれくらいしか想像できなかった。サリーナ姫が単独で農業に取り組んでいるという事実からもそれはうかがい知ることができる。


 果たして、俺たちをこの国から追いだそうとしている者とは誰なのか。

 未だにその正体が分からない中、


「おや? こんな場所で何をしているのかな?」


 聞き慣れぬ男性の声が、俺たちの背後から聞こえてきた。

 現れたのは二十代後半と思われる金髪の男性。

 その身なりから、すぐに彼がどのような地位の人間であるか察する。


「アドウェル王子!?」


 驚愕の表情を浮かべて叫んだのは、騎士団の人間だった。

 やはり……彼は王族の人間だったか。

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