第223話 突然の退去命令

「で、出て行けって……どういうことなんですか!?」

「理由を聞かせてください!」

「横暴ですわ!」


 俺だけじゃなく、キアラとシャーロットも騎士へ食ってかかった。

 当然だ。

 ようやくこの国で農業ができるかもしれないという光明が見えたというのに……それをサリーナ姫へ伝える前にローダン王国から出ていくわけにはいかない。


 宿屋のロビーで騒いでいたら、


「何かあったのか?」


 騒ぎを聞きつけたグレゴリーさんがやってきた。


「君は?」

「ライマル商会代表のグレゴリー・ライマルだ。こちらの少年たちは私の商売仲間になるのだが……事情を説明願いたい」

「その必要はない」

 

 グレゴリーさんからの質問に、騎士たちは答えるつもりなどないらしい。まさに問答無用ってわけか。

 ただ、この態度にはさすがのグレゴリーさんもカチンと来たようだ。


「それはちょっと乱暴すぎやしないかい? 彼らが何か悪さでもしたというのなら話は別だが……私の知る限り、彼らがそのような軽率な行動をとるとも思えない」

「説明の必要はないと言ったはずだ」


 ダメだ。

 向こうはもうそれで押し通すつもりでいる。

 だが、グレゴリーさんも引き下がらない。


「それはサリーナ姫のお考えなのか?」

「いや――国王陛下からの命令だ」

「なっ!? ローダン王が!?」


 ローダン王国の国王陛下が、俺たちを追いだそうとしている?

 にわかには信じられない話だ……だって、これまでもローダン王国とライマル商会はうまくやっていたはずなのに。これにはグレゴリーさんも開いた口がふさがらないくらい衝撃を受けているようだ。


 と、そこへ、


「ちょっと待ってくれ!」


 突如、宿屋にひとりの騎士が乱入。

 それは――


「ケビンさん!?」


 俺たちに農業に関するアドバイスを求めてきたケビンさんだった。


「先ほどミーティングで話を聞いたが、なぜ彼らを追いだす!」


 どうやら、ケビンさんは俺たちを退去させようとする騎士団の動きを知らなかったようだ。同じ騎士団の人間でありながら、情報が一方的すぎるようだが……もしかして、内部で何かあったのか?


「ケビン。これはおまえが気にするような問題ではない」

「気にするに決まっているだろう! 彼らを国内へ招待したのは俺なんだ!」

「君ではなく、サリーナ姫様だろう?」

「そ、それは……」


 確かに、ケビンさんはサリーナ姫からの指示で動いていた。

 でも、それならどうして国王陛下は姫のやりかたを全面否定するような手段に打って出たのだろう。

 ……原因については皆目見当もつかないが、これだけは言っておきたかった。


「俺たちはサリーナ姫からこの国で農業ができないかという相談を受けていました」

「それはこちらも聞いている。だが、もうその必要はない」

「いえ、必要はあります」

「何? どういう意味だ?」

「この雪と氷で覆われたローダン王国でも――農業は可能だからです」

「「っ!?」」


 俺たちを追い返そうとした騎士だけでなく、ケビンさんも驚きに目を大きく見開いていた。

 さて……これで説明の機会を与えてもらえるといいのだけれど。

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