第220話 アイディア
雪と氷の国――ローダン王国。
その王都は、クレンツ王国に比べるとまったく雰囲気が異なっていた。
「改めて外に出ると……寒いわね」
「雪まで降っていますし……」
「ですぅ……」
キアラとシャーロットとシモーネは寒さに震えている。
一方、他の四人はイキイキとしていた。恐らく、これだけ環境の違う場所へ来たことはないので、テンションが爆上がっているのだろう。
「ふたりはひと足先に宿屋へ戻っているか? 夕食の時になったら呼びに戻るから」
「うぅ……そうさせてもらおうかしら」
シャーロットがそう言うと、キアラとシモーネのふたりもそれに続く。
三人を見送った後で、俺とマルティナ、ハノンとアイリアの四人で王都を見て回ることにした。
今回は観光目的じゃない。
サリーナ姫からの依頼を叶えられるかどうか、きちんとチェックする必要がある。
……まあ、この雪がチラつく現状を目の当たりにしたら、大体の察しはつく。
無理だ。
――と、普通の人ならそう思うだろう。
何せ、場所によっては足もとがすっぽりと収まってしまうほどの積雪がある。ここで農業をやろうというのは無謀以外の何物でもない。
だが、俺には竜樹の剣がある。
こいつがあれば、きっとここでの農業も可能になるだろう。
――が、ここで俺はある疑問にたどり着く。
「問題は……俺がいなくても継続的に農業ができるかどうかだよな……」
そこだ。
竜樹の剣があれば、農業はできるだろう――が、それを継続して行うためには、常にその力が必要になる。つまり、ここへ移住する必要があるのだ。
それはさすがにできない。ダンジョンにある地底湖とツリーハウスを手放すことは、俺にとって命を奪われるに等しいことであった。
「うーん……」
どうしたものかな。
きっかけは竜樹の剣でも構わないのだが、それを継続的にやっていくところに大きな課題が存在している。
最大の障害となるのは、この雪だろう。
どれだけ立派な畑を耕したとしても、この雪がすべてを台無しにしてしまう。かといって、さすがの竜樹の剣でも、天候までは操ることができない。
これをどうやった解決するか悩んでいると、
「ベ、ベイル殿!? 肩に雪が積もっていますよ!」
「えっ? わっ!?」
いつの間にか、雪の量が増えてきている。
この調子で降り続けると、明日の朝には今以上に積もりそうだ。
「さすがにこのまま外にいるのはまずいのぅ」
「風を引いてしまいそうだね」
「でしたら、一度宿屋へ戻りましょう。屋根のある温かい場所で過ごせば、風を引くこともありませんし」
「屋根のある温かい場所……?」
何気ないマルティナのひと言が、俺に大きなアイディアをくれた。
なるほど。
避けられないなら、守ればいいのだ。
今日のところは難しいけど、明日にはより詳しい調査ができそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます