第219話 疑惑
ついにやってきたローダン王国。
俺たちをここへ呼んだのは、雪姫と呼ばれるサリーナ様。
彼女は年間を通して雪と氷に覆われているこのローダン王国で農業をやろうと考えているのだ。
正直な話をすると、サリーナ姫がどこまで本気なのか少し疑問だった。
しかし、この国で農業をやりたいという思いを語る彼女の情熱を目の当たりにすると、その疑いは一気に晴れる。
彼女は本気で農業をやるつもりだ。
「――以上が私からのお話になりますが……どうでしょうか? この国で農業は可能だと思いますか?」
「……なんとも言えないですね。もう少し、この国を見て回ってみないと」
「つまり、可能性はゼロではないということですね?」
「えっ? ま、まあ……」
ポジティブというかなんというか。
俺としても、実際にこの吹雪の中で竜樹の剣がどこまで力を発揮できるのか、気になるところではある。特に、今手にしているのは生まれ変わった竜樹の剣――どこまでやれるのか、チェックもできるしな。
「それでは、この国をじっくりと見て回ってみてください。それから改めて、お話を聞きたいと思います」
「分かりました」
サリーナ姫からの許可もおりたことだし、少し休憩してから王都を中心にこの国をじっくり見ていくとするか。
サリーナ姫の厚意により、俺たちは城内に部屋を用意してもらえた。
「いいのかなぁ……こんな待遇を受けちゃって」
人数が多いとはいえ、グレゴリーさんたち商会の関係者は王都の宿屋に泊まることとなっていた。それなのに俺たちだけ城内とは……これに関しては、ある事情があった。
それは――サリーナ姫がうちの女性陣と仲良くなったから。
年齢的にはそれほど違わないが、何せ立場が違いすぎる。キアラやシャーロットでさえ終始緊張していたのだが、当のサリーナ姫はみんなに興味津々。
思えば、常に周りは年上ばかりだからなぁ。
彼女が同年代の同性と仲良く話がしたいという理由もよく分かる。
しまいには夕食まで一緒にとっていたし……もちろん、厳戒態勢が敷かれており、俺としては緊張で料理の味をよく覚えていないよ。
そういった経緯もあり、城内に部屋を割り当てられ、そこへ戻ってきたことでようやく心から落ち着けるようになった。
ちなみに、部屋はそれぞれに一室ずつ与えられており、俺のすぐ横はキアラの部屋となっている。
「ふぅ……」
息を吐きながら、俺はベッドへと仰向けになる。
緊張しっぱなしだったが、終わってみればあっという間の出来事だったな。
ひとつ気がかりといえば……国王陛下に会っていないという点だ。
ケビンさんの話だと、国王は公務で忙しいため代理の者が様子をチェックしているとのことだったが、本当にそうだろうかと少し疑問に思っていた。これについては俺だけじゃなく、グレゴリーさんも同意見であったと後で確認が取れている。
引っ掛かりを感じるところは多々あるが、少なくともあの姫様が農業に取り組みたいと思っているのは本気だと思う。
「ゲームではこの辺で農業はできないってことになっているけど……それはあの砂漠もそうだったからなぁ」
俺は横になりながら、ゲーム知識を総動員して可能性を探った。
ともかく、問題は明日。
みんなで王都を見て回るところから始まる。
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