第212話 旅支度

 ケビンさんからの依頼を受け、俺たちはローダン王国へ向かうことにした。

 今回の依頼――正直なところ怪しい面もあるが、引き受けるに至った最大の要因はグレゴリーさんたちライマル商会も同行してくれるという点にあった。


 どうやら、グレゴリーさんとケビンさんは俺の想定以上に深い絆で結ばれており、困っている彼をこのままにはしておけないと語っていた。

 あのグレゴリーさんが商売に私情を挟むなんて……その辺はシビアな人だっただけに最初は驚いたけど、それだけの仲ってことだよな。


「悪いな……巻き込んだみたいな格好になってしまった」

「そんなことはありませんよ」


 まあ、俺も困っている人を放置しておくのは気が引ける。多少、引っかかる点はあるものの、農場をつくりたいというサリーナ姫様の気持ちはよく分かる。

 それに、グレゴリーさんがここまで必死になっているんだ。

 放ってはおけないよ。


「では、出発の準備を整え、明日の早朝に改めてうちへ来てくれ。それと、今回の件についてはきちんと報酬を払う」

「分かりました」


 契約書を交わし、晴れて正式な依頼となって挑むこととなった。

 とりあえず、俺たちとシャーロットはツリーハウスへと戻り、他のみんなにこれまでの経緯を説明しよう。


「それでは行きましょうか、ベイルさん」

「あぁ」


 俺とシャーロットは商会をあとにし、帰路へと就いた。



 ツリーハウスに戻ってくると、早速みんなを集めて話をする。

 

「それは助けないとですね!」

「困っている人を放っておけません!」

「僕もふたりと同じ意見かな」


 マルティナ、シモーネ、アイリアの三人はローダン王国への農場設立に協力する姿勢を見せていた。

 一方、キアラとハノンは険しい顔つきとなっている。

 夕食の支度をしていたメイドのクラウディアさんも同じような反応だ。


「そのケビンって騎士……まだ何かを隠しているんじゃない?」

「ワシはキアラと同意見じゃな。グレゴリーの知人という話じゃったが……最初に嘘の報告する辺り、全幅の信頼を寄せるには難しい相手ではないのか?」


 ふたりの懸念はもっともだ。

 今回の件……すんなりいきそうにはないな。


 ――って、思ったけど、そもそもこれまでを振り返ってみても、


 霧の魔女。

 嵐の谷。

 砂漠のアルラウネ。


 などなど。

 あまりスムーズに事態が解決に向かったことがなかった。むしろ余計なトラブルが増えて当初の目的より困難になっているケースが多い気がするほどだ。

 ただ、今回は他国だからなぁ。

 グレゴリーさんが同行してくれるのは心強いが、それに頼りきりとならないよう、俺たちも入念に準備をしていった方がいいだろう。

 もちろん、新しく生まれ変わった竜樹の剣も忘れない。


 今回の件については、相棒の力を借りないことには解決不可能だからな。


「頼りにしているぞ」


 俺は竜樹の剣にそう語りかけ、みんなと一緒に旅の準備を始めるのだった。


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