第213話 寒冷地対策

 今回、俺たちが挑むこととなる場所はローダン王国。

 年間を通して気温が低く、雪と氷に覆われているような場所だ。


「しっかり着込んでいかないと凍えちゃうわよ?」


 キアラからの声かけで、全員が急遽冬用の衣服を用意し始める。ただ、服の管理は個人でしているため、量や質にバラつきがあった。


「とりあえず、持っていけるだけ持っていこう」

「それがよさそうですわね」


 服へのこだわりがあるキアラやシャーロットは、バリエーションも豊富に揃っているため、どのような気候にも対応ができる。しかし、他のメンバーはふたりほど強いこだわりがあるわけではないため、どうしても心もとない。

 そもそも、俺自身も装備には不安があった。

 武器こそ竜樹の剣があるものの、それ以外は極寒仕様と言えたものではなかったのだ。

 思っていた以上に、俺たちの冬装備が足りていない。

 というより、こっちの国は多少の気温差があるとはいえ、年中温暖な気候といっていいから、衣替えという概念がほとんどないんだよな。


「……念のため、こいつをもらってきて正解だったな」

「? 何を借りてきたんじゃ?」


 俺が大きな袋をテーブルの上に置くと、まずハノンが興味を示し、それから他のみんなにも伝わっていく。中身を知っているシャーロット以外が注目する中、俺は袋からある物を取りだした。

 それは――


「っ! 新しい服!」

「それもすっごくもふもふですぅ!」


 マルティナとシモーネは瞳を輝かせながら取りだした服を手に取る。

 こうした冬の装備に不安を持っていた俺は、グレゴリーさんにお願いして商会で取り扱っている寒冷地仕様の服や靴などを仕入れていた。

ちなみに、今回は半ばグレゴリーさんの私的な案件ということもあって、これらのアイテムは「提供」という形で落ち着いた。


「みんな、好きな物を選んでくれ」


 俺がそう呼びかけると、女性陣による選考タイムが始まる。


「みなさん、熱心に選ばれていますね」

「女の子はこういうの好きだよねぇ」


 クラウディアさんの淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、みんなが楽しそうに服を選んでいる様子を眺める。男物は俺の分しかないため、争奪戦になる必要もないからな。

 ――と、


「しかし、ローダン王国ですか」


 唐突に含みのある言い方をするクラウディアさん。


「な、なんですか、急に」

「いえ……なぜサリーナ姫様はそこまで農業にこだわるのだろうとふと思いまして。産業を発展させるためならば、もっとやりようはあるのではと」

「まあ、確かに」

 

 それは俺も感じていた。

 姫様が農業にこだわる特別な理由――それがあるのだとしたら、俺たちの旅の目的にも変化が生まれるかもしれない。


「ローダン王国自体の評判は悪くありません。治安もいいですし、そこまで不安に感じることはないと思います――けど」

「油断禁物。常に周りを見て行動するようにするさ」

「さすがですね。これで私も安心してお嬢様を預けられます」


 ……その期待を裏切らないようにしないとな。

 旅の出発は明朝。

 それまでに、きちんと準備を整えておかないと。

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