第210話 騎士ケビンの思惑

 場所をライマル商会の事務所に移すと、早速ケビンさんが用件を告げる。


「あなた方に我が祖国へおいでいただきたく、今日は参りました!」

 

 深々と頭を下げるケビンさん。

 ……とはいえ、まったくもって事情がのみ込めない。


「えぇっと……もうちょっと詳しく説明していただけますか?」

「あっ! そ、そうですね!」


 ケビンさんは「コホン」と咳払いを挟んでから、俺たちに接触を試みるまでの経緯を語ってくれた。

 まず、彼の故郷は大陸最北端にあるローダン王国。

 その名前には聞き覚えがあった。


「確か、ローダン王国って……一年を通して雪と氷に覆われているという」

「その通りです!」


 ガタッと勢いよくケビンさんは立ち上がり、俺の両手をガッチリ掴む。どうやら、俺がローダン王国のことを知っていたって事実が嬉しかったらしい。

 けど、それって結構有名な話なんだよな。

 原作である【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中にも登場するし、それによると観光業で盛り上がっているとか。

 そんなローダン王国の騎士が、単独で一体何をお願いに来たのか……その内容は俺の想像を超えるものだった。


「実は――我がローダン王国でも、本格的に農場へ取り組もうと思いまして!」

「「えぇっ!?」」


 俺とシャーロットの声がピタリと重なる。

 

「? 何をそんなに驚かれているのですか?」

「そ、それは……」


 キョトンとしているケビンさんだが……それは長らくローダンに住んでいる彼の方がよく理解していると思う。

 さっきも言った通り、ローダン王国は年間平均気温がクレンツ王国より十度近く低く、お世辞にも農業向きの気候だとは言えなかった。

 それでも、ケビンさんの言動から冗談で言っているようにも思えない。

 恐らく、その背景にあるのは砂漠の町ダッテンでの一件だろう。

 あそこも農業向きの気候とは呼べないが、オアシスがある分、まだなんとかなる。しかし、さすがにローダン王国では難しいだろうというのが俺の見解だった。


 ……まあ、間違いなく竜樹の剣による奇跡を期待してのことなのだろうが、これに関してはまったく未知数であるため、俺も「任せてください!」と高らかに宣言するのはためらわれた。


「それにしても、なぜ今になって農業を?」

 

 シャーロットの口から飛び出す、至極当然の質問。

 ……そうだった。

 まだ、なぜ彼らが急に農業をやりだすなんていいだしたのか、その理由は聞いていなかった。


「単刀直入に言いますと……観光業だけでは何かと不安で」


 思っていた以上に現実的で切実な問題だった。

 あと、もうひとつ気になる点が。

 

「それは国王からの指示で?」

「いやぁ……」


 露骨に返事を濁したな。

 だけど、非公式でこんな依頼をして大丈夫なのだろうか。

 ダッテンの一件はあくまでもクレンツ王国内での話だったから自由に動けたけど、ローダン王国で活動するならその辺の問題をクリアにしておかないといけないだろう。


 俺としてはフリーの身なので、正式に依頼をされればいろいろと検討することもできるのだが。

 ……これは確証のない話だけど、


「ケビンさん……何か隠していませんか?」

「っ!?」


 とても分かりやすいケビンさんの反応。

 一体、何を隠しているって言うんだ?

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