第208話 頼もしい相棒

 学園祭を終えて、俺たちは地底湖にあるツリーハウスへと帰ってきた。


「お戻りになりましたか」

「うん。留守番ありがとう、クラウディアさん」

「滅相もない。これが私の仕事ですので」

 

 相変わらず、クラウディアさんの反応は淡々としているな。

 俺たちが帰ってきた時、彼女は一階にあるキッチンのテーブルで何かを書いていた。それは何か尋ねてみると、別大陸に住む同業者であり友人という三人の女性に向けてあてた手紙なのだという。


 なんでも、そのメイドさんたちが仕えていた主人は、聖剣という激レアアイテムを授かりながらもほんの一年前まで国内で知らぬ者はいないほどのクズ男だったらしい。


 ただ、何がどうなったのか未だに原因は不明らしいが、その主人は今や学園の模範的生徒として生徒会長を務めているという。メイドさんたちはその主人と婚約者がうまくいってくれることを切に願っていると手紙の中で熱く語っていた。


 ちなみに、他にもメイド仲間がいるらしい。

 どうも、メイドさんたちの交流会みたいなイベントあるらしく、そのメイド三人娘さんともそこで知り合ったという。


 ――話を戻すが、俺は荷物を片付けて早々に竜樹の剣を持って外へ出ようとする。


「あら? こんな時間に鍛錬するの?」


 真っ先に俺の行動を疑問視して尋ねてきたのはキアラだった。


「あ、あぁ、ちょっとだけ、な?」

「…………」


 ジト目でこちらを睨んでいたキアラは、しばらくすると「はあ」と息を吐いて言う。


「怪我だけはしないようにしてよね」

「っ! 分かっているって!」


 さすがはキアラ。

 俺のことをよく分かっている。

 彼女の母親でもあるスラフィンさんと新しい竜樹の剣に関する話をしていたら、その力を完璧に使いこなしたいって気持ちがあふれてきた。居ても立ってもいられないとはまさに今みたいな心境を言うんだろうな。


 気を取り直して、俺はひとり地底湖のほとりに立つと竜樹の剣へ魔力を注ぐ。

 ……うん。

 だいぶ自然な感じになってきた。


 温泉から戻った直後くらいは、ほとんど手が付けられないほどだった。まさにじゃじゃ馬って言葉が似合うくらい暴れん坊だった。


 けど、ディルクと戦ったあたりから……うまく表現できないんだけど、剣が素直になっている気がする。こちらの考えを汲んでくれて、扱いやすくなったというか。


 ともかく、プラスになっていることは確かだ。


「よし……ひとつやってみるか」


 俺は竜樹の剣を地面へと突き刺す。

 いつもと変わらない使い方――しかし、ここからの力は以前に比べて雲泥の差がある。


「ぐっ!?」


 全身から溢れ出そうなほどの膨大な魔力が、地面を通して地底湖周辺全体に行き渡っていくのを感じた。


「こりゃ凄い……」

 

 想像を遥かに超えた力だ……ここまで来ると、農業関連以外にも応用はできそうだな。

 まったく、うちの相棒は頼もしくてうれしくなってくるよ。


「ベイル殿! ご飯ができましたよ!」

「分かった。すぐに行くよ」


 マルティナに呼ばれて、俺は剣をしまう。

 さて、今日のメニューは何かな。

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