第207話 祭りの終わり
外へ出ると、すでに周りは夜の気配をまとっていた。
発光石を埋め込んで作られたランプがあちこちに置かれ、それらから発せられる淡い光が幻想的なムードを醸しだしている。
「あのランプいいなぁ。どこかの工芸品?」
「以前、学園長が旅行で訪れた、別大陸にある村の収穫祭で村人たちが作っていたランプらしいわ」
「わたくしも聞いたことがありますわ。確か、旧帝国の要塞を村に改装したとか」
「要塞を? ダンジョンに農場をつくっている俺たちが言えることじゃないかもしれないけど……随分と変わったことをする人もいるもんだな」
世界は広い、ということか。
機会があれば一度足を運んでみたいところだけど……別大陸となると、かなりの大移動になるから難しいかな。
「ベイル殿! おいしそうな料理が並んでいますよ!」
「あまり見かけない料理じゃな……創作料理というヤツか」
キアラとシャーロットからランプについての話を聞いているうちに、マルティナとハノンは料理に視線を奪われていた。
しかし、それも無理はないと言えるくらい、並ぶ料理はどれもおいしそうで、多くの人がいい匂いに誘われて集まってきている。
……あれ?
あの料理って、もしかして――
「あっ! いた!」
屋台に並ぶ料理を眺めていると、俺たちへ声をかけてくる学生たちがいた。
そう。
俺が野菜を提供した料理部の面々だ。
「やあ、大盛況みたいだね」
「おかげさまでね。あなたには感謝してもしきれないわ」
代表者である部長さんから、お礼の言葉を贈られた。俺としては困っている彼女たちを何とか助けたいという一心だったので、とにかく成功したようで何よりだよ、ということを伝える。
料理部が去った直後、今度は別の学生たちが俺たちのもとを訪れる。
演劇部のジェニーとレスタ、それからルース部長や部員たちだ。
「ありがとうございました」
「君のおかげで最高の舞台になったよ!」
主役の座をディルクに無理やり奪われたレスタであったが、あいつを連れだしたことにより復帰。きちんと稽古していただけあって、ぶっつけ本番という状況ながらも見事に演じきり、お客さんたちからはスタンディングオベーションでたたえられたという。
その後、ルース部長からも感謝の言葉をいただくと、演劇部員たちは後夜祭を楽しむために人混みへと分け入っていった。
「大活躍だったみたいですね、ベイルさん」
「さすがだね」
ひと通り終わると、シモーネとアイリアから声をかけられる。
「困っている人たちを助けただけだよ」
「そういうのがサラッとできるから、君は凄いんだよ」
「いや、そんな――って、ウィリアムスさん!?」
いつの間にか、学園農場の管理人であるウィリアムスさんが紛れ込んでいた。
「祭りの締めくくりくらいは顔を出さないとな。それより、君たちもしっかり後夜祭を楽しんでくれよ」
「もちろんです」
ウィリアムスさんに背中を押される形で、俺たちも後夜祭へ本格参戦するために歩きだした。
本来ならば、俺もここでいろいろ学ぶはずだったんだよなぁと振り返りつつ、それでも今の生活に満足しているからいいやとも思う。
いずれにせよ、これから後悔のない人生を送るべく、必死にやっていこう。
俺は心の中で強くそう誓ったのだった。
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