第206話 これからやるべきこと
生まれ変わった竜樹の剣。
その強大な力をうまくコントロールするためにはどのようなことに気を付けるべきなのか……これに関するヒントをスラフィンさんからもらおうと思ったのだが、
「まあ、慣れだな」
返ってきた答えは実にシンプルでつかみどころのないものだった。
「な、慣れって……他に何かないんですか?」
「正直なところ、竜樹の剣に上位互換が存在するなんて話は聞いたことがなくてね」
言われてみれば、そもそも竜樹の剣が規格外に優れたアイテムで超激レアなのだから知らなくても無理はない。
大体、樹神の剣に至ってはバグを疑うレベルで有能だからな。ゆえに、問題はそれを扱う側の腕ってことになる。今の俺には、その腕が圧倒的に足りない。それが素直な感想だった。
――こうして振り返ると、スラフィンさんの言った「慣れ」って言葉は、それだけ聞くとちょっと投げやり気味に感じるが、実は的を射ているのかもしれない。
思い出されるのはディルクとの戦闘だ。
あの時は比較的自然に使えた――あれこそ、慣れによる加減の制御がうまくできた証ではないか。
……だったら、俺のやるべきことはただひとつ。
そして、それは他のみんなにも伝わっていた。
「つまり、これからもっと農場を大きくしていけばいいって話よ」
「それではいつもと変わらないのではないか?」
「でも、私はそれでいいと思いますぅ」
「わたくしもシモーネさんと同意見ですわ。今の楽しい生活がキープできるというなら、これ以上の成果はありませんわ」
「僕も! みんなといると楽しいし、農場の仕事は好きだし!」
「じゃあ、このままで大丈夫ですね!」
最後にマルティナが手をポンと合わせながらそうまとめる。
……みんな、今の生活に満足してくれているみたいで何よりだ。
キアラやシャーロットは実家が凄いから、農場での生活に不満を持っているかもしれないと思っていたが、ふたりの表情や口ぶりから、それは偽りのない意見だろう。
それぞれの意見を耳にしたスラフィンさんは、優しげな笑みを浮かべつつ、静かに語りかけた。
「みんなの言う通りだよ。君はこれからもあのダンジョン農場でいつも通りの暮らしをしていればいい。最初のうちは苦労することもあるだろうが、使っているうちに加減を覚えてくるさ」
「……そうですね。俺、頑張ります」
結局、即解決に結びつくような答えは出てこなかったが、逆にこれからもコツコツ地道に力の制御をするため、力を使っていくしかないという今後の方針は固まった。
ちょうどその時、外から聞こえてくる学生たちの声が大きくなっていることに気づく。窓へと視線を移した時に分かったのだが、すでに外は暗くなっていた。
「どうやら、後夜祭が始まったようだね」
「それじゃあ早くいきましょう」
「学園祭は最後まで楽しいんですのよ?」
キアラとシャーロットが先頭になって俺たちを会場へと案内してくれた。
不安が完全に解消されたわけじゃないけど、とりあえずやるべきことは決まった。
これからもみんなと楽しい毎日が過ごせるよう、頑張っていかないとな。
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