第205話 後夜祭の前に

 キアラやシャーロット曰く、とても盛り上がるらしい後夜祭を存分に楽しむため、俺たちはスラフィンさんのもとを訪れた。


「悪かったね。来客との用事が長引いてしまってな」

「いえ、こっちこそアポもなく訪ねてきたのですから」


 軽く挨拶を済ませたところで、早速本題へと移る。

 俺は竜樹の剣が破損してから回復するまでの経緯について説明した。


 スラフィンさんは顎に手を添えて興味深げに聞き入り、俺が話し終えるとデスクの上にあるコーヒーをひと口だけ飲んでから話し始める。


「竜樹の剣を破損させるアルラウネの存在にも驚いたが……まさかパワーアップしてくるとはね。しかも、君がコントロールできないくらい強大な魔力を秘めている……」

「なんとか、完璧に使いこなしたいと思っているんですけど……」


 先ほど、ディルクと対峙した際は比較的簡単に扱えたのだが、改めて剣を構えてみるとまったく手応えがない。あの時は非常事態ということもあったからなぁ……ただのマグレだったってことか?


「たとえ一時のこととはいえ、君がそれを使いこなしているという事実は変わらない。大丈夫だ。必ず使いこなせるようになる」

「スラフィンさん……」


 原作ゲームではお助けキャラとしてプレイヤーを支えるスラフィンさんの言葉は、とても頼りになる。まあ、ゲームでの話を抜きにしても、この世界におけるスラフィンさんは魔法研究の分野では有名人だからな。

 そんな人に大丈夫と太鼓判を押されたら、安心しないわけない。


 それから、実際に新しくなった竜樹の剣をじっくり見てもらう。


「ふむ。劇的にデザインが変わったというわけではないようだな」


 最初は外観の特徴をチェックし、それから肝心の魔力について調べ始める。


「これは……ほぉ……実に興味深いね」


 冷静を装いつつも、調べていくうちにだんだんとテンションが上がってくるスラフィンさん。それは果たして何を意味しているのか……とりあえず、悲しい結果になることはなさそうなのでホッとしているけど。


 およそ十分間――じっくりと竜樹の剣を堪能したスラフィンさんは、調べたことで発覚した事実を教えてくれた。

 

「外見に目立った変化は見られないが……君の言う通り、中身はもはや別物だ」

「と、言いますと?」

「恐ろしい魔力を秘めている。きっと、これからさらに強くなっていくな。――それこそ、君の従弟のディルクが手にした神剣と遜色ないほどに」

「えっ!?」


 ディルクの持つ神剣と遜色ない力だって?

 それはかなり強力だぞ……何せ、鍛錬などほとんどしないあのディルクが手にしてあれほどの力を持っていたのだ。あいつが真面目に取り組めば勝てる気がしないと思っていたのだが……もしかしたら、今後の扱い方次第で対等に渡り合えるだけの力を得ることができるかもしれない。


「……力、か」


 ふと、これまでの生活が脳裏をよぎった。

 今まで、ずっと戦闘とは程遠い生活を送ってきた。そりゃあ、嵐の谷で怪鳥と出くわしたり、ハノンの母親であるアルラウネと戦ったことはあったものの、基本的に自分から仕掛けることはない。


 その生活を今後も変えるつもりはなかった。

 静かに。

 平和に。

 穏やかに。

 それをテーマにしてきた暮らしを今後も続けていきたい――それが、俺の偽りなき本心であった。


 そう思うと、竜樹の件との付き合い方も考えていく必要がありそうだな。




…………………………………………………………………………………………………



新作をはじめました!


異世界転生×実は最強&万能主人公×物づくりスローライフ×ハーレム

「ざまぁもあるよ?」


工芸職人クラフトマンはセカンドライフを謳歌する ~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~】


https://kakuyomu.jp/works/16817139555862998006


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