第199話 ディルクの怒り
「俺たちの劇を完璧なものに……?」
ジェニーの彼氏――レスタは「そんなことができるのか?」と言わんばかりに驚いた表情を浮かべて固まっていた。
他の部員も同じようなリアクションをしているが、それは無理のないこと。
ただでさえ、国政にも強い影響力を持つオルランドの人間であり、さらに神剣というとんでもないアイテムを授けられたディルクの意向に逆らえる者など教職員でさえいないというのが現実だった。
下手に突っかかると、学園にいられなくなるかもしれないからな。レスタは主役の座を奪ったディルクに対して抵抗しようと試みたらしいが、恋人であるジェニーに止められたという。
「それは難しいんじゃないか?」
悔しさをにじませながら、レスタは言う。
何もできない己の不甲斐なさを噛みしめるように、握った拳へ力が込められていくのが分かった。
俺はそんなレスタに微笑みかけながら語る。
「確約はできないけど……とりあえず、当のディルク自身に――」
「何をしている!」
話の途中で、誰かが背後から叫んでくる。
それは、聞き慣れた声だった。
「さっさと準備にかかれ! この俺の舞台を台無しにしたらどうなっているのか分かっているんだろうな!」
居丈高に怒鳴りながらステージへ上がってきたのは――話題の渦中にあったディルク本人であった。
そのディルクは、俺を発見するなり表情を一変させる。
「貴様……ベイル!? なぜここに!?」
「久しぶりだな、ディルク」
煽るように微笑み浮かべながら、俺はヤツと目を合わせる。こちらの余裕ある態度を目の当たりにしたディルクは、予想通り怒りをあらわにした。
「ここは貴様のような落ちこぼれが来ていい場所じゃないんだ」
「そのようだな。俺はこれでお暇するよ」
あえてサラッと受け流し、背を向ける。
――そして、
「行こう、キアラ」
キアラを呼び寄せた。
最初はポカンとしていたキアラだが、すぐにこちらの意図を読み取り、合わせてくれる。
「そうね。行きましょうか、ベイル」
俺のそばへ足早にやってくると、そのまま自然に腕を組む。
さすがにこれは予想外だったので思わず体がビクッと反応したが、
「あいつへ見せつけるためなんだから我慢して」
と、小声で忠告を受ける。
それはそうなのだが……距離が近すぎていろいろ当たっているんだよ。キアラ本人もやったはいいが少し大胆だったかと冷静になり、今は耳まで真っ赤にしている。
だが、このキアラの体を張った行動は効果テキメンだった。
「待て!」
大声をあげて俺たちを止めるディルク。
「どうかしたか?」
「邪魔しないでくれる?」
俺とキアラが同時に振り返ると、ディルクはこれまでにない怒りの表情を浮かべていた。
どうやら、作戦成功みたいだな。
「ベイルの分際で……なぜキアラとそんなに親しくしているんだ!」
「彼女とは一緒に暮らしているんだ」
「な、何だと!?」
嘘は言っていない。
「あっ、ちなみにシャーロット・ブラファーも一緒よ」
キアラが追撃のひと言を放つが、これも間違いではない。
「ぐっ……」
狙っていたふたりの女子が、見下していた俺と一緒に暮らしていると知ったディルクの表情はますます怒りでゆがんでいく。
……そろそろ大爆発を起こしそうだな。
ちょっと煽りすぎたかもしれない。
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