第198話 悩める演劇部
思えば、学園の表舞台へ来たのはこれが初めてだった。
以前、ハノンの種をもらったり、霧の魔女絡みで訪れた時は研究棟や農場だった。学生たちで溢れかえる校舎側へは足を運んだ記憶がない。
おまけに今日は学園祭当日。
キアラ曰く、喧騒はいつもの比ではないという。
その忠告は間違っておらず、確かに凄い賑わいを見せていた。
ドリーセンの町の朝市にも負けないくらいだ。
「そういえば、マルティナたちは?」
「何も心配はいらないわ。今はシャーロットが案内しているから。私はこの子が劇場から飛び出してきたのを見て追いかけていたところだったの」
「ご、ごめんね、キアラ」
「気にしなくていいわよ」
あのキアラが……同級生と自然に会話を交わしている。
ダンジョンの上から落ちてきた時から大きく成長したようだ。
人込みをかき分けて、俺たちは劇場へと到着。
すでに舞台の準備は整っており、あとは役者が衣装を着るだけの状態となっていた。
身構えていたものの、どうやらまだディルクの姿はないようだ。
「ジェニー!? 今までどこへ行っていたの!?」
「ごめんなさい、部長」
眼鏡に三つ編みといういかにも真面目な性格といった出で立ちをした女子生徒がジェニーへと駆け寄り、声を荒げる。ただ、それは怒っているというより彼女を心配しているからこそ出たものだと思われた。
そんな部長の横には長身のイケメンが立っており、何やらジェニーに声をかけている。
すると、
「あれが噂の恋人よ」
キアラが耳打ちをして教えてくれた。
なるほど……美少年&美少女の良いカップルだな。
ディルクはこのふたりの仲を引き裂こうとしているのか。
本来なら、この劇だってきっといい学生時代の思い出となるはずだったのに……親族として申し訳なく思うよ。
「ところで、さっきから気になっていたんだけど……あなた、誰?」
冷静さを取り戻した眼鏡部長から急に話を振られる。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はベイル・オルランドという者で――」
「ベイル? ……ああ、キアラ嬢一番のお気に入りって噂の人ね」
「ちょっと!?」
慌てて眼鏡部長の口をふさぐキアラだが、とっくに手遅れだった。
「そんなにムキにならなくてもいいのに」
「い、いいでしょ、別に!」
「やれやれ……あっ、ごめんなさい。こちらの自己紹介がまだだったわね。私はこの演劇部の部長を務めるルースよ」
俺と演劇部部長のルースは、互いに自己紹介を終えて握手を交わす。
その時、ひとりの男子生徒があることに気がついた。
「ちょっと待て! 今、オルランドって言ったか!?」
「オルランドって……ディルク・オルランドと同じ名前!?」
「というか、君は確か、神授鑑定の儀でボロボロの剣を授けられていなかったか!?」
途端に、演劇部員たちが騒ぎ始める。
大半は俺とディルクが同じオルランドの名を語っていることについてだが……そんなに脅威となっていたのか、オルランド家は。
「みんな落ち着いて! 確かに、ベイルはオルランド家の人間だけど、それはもう過去のことよ!」
キアラが呼びかけたことで、騒々しさは徐々になくなっていった。
どうやら、俺が家を追いだされたという事実もみんな知っているみたいだ。
静かになったところで、改めてルース部長が尋ねてくる。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「君たちの劇をより完璧なものとするためにきた」
「えっ?」
顔を見合わせる部員たち。
誰もが困惑している様子だが……こちらの狙いはしっかりと伝わっている。
俺はそう感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます