第200話 ベイルの作戦
「ベイル!」
俺への怒りが頂点に達したのか、とうとう名前しか言わなくなった。
……ここまでは、狙い通りだ。
というより、少し出来すぎかな。
念のため、あともうひと押ししておこうか。
「用がないなら、俺はもう行くぞ」
「待て! このまま帰れると思うなよ!」
言いがかりも同然だが、ディルクとしては俺の度重なる煽り言動により冷静な判断ができないまでになっていた――いや、もしかしたら、これが学園での素の状態なのかもしれない。
もはや歯止めがきかないというか、止めてくれるストッパーが存在しないため、どこまでも突っ走っていく状態なのだろう。
「表に出て、俺と勝負しろ!」
「勝負?」
ここで、ディルクは俺に勝負を仕掛けてきた。
大方、神剣の力で俺を圧倒し、キアラの前で恥をかかせるのが狙いってところか。
ディルクから挑戦状を叩きつけられた俺は、
「興味ないからパスで」
サラッと聞き流し、キアラとともにその場を立ち去る。
「そんな答えが許されると思っているのか!」
スルーされたディルクは俺を追いかけて駆けだす――と、
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 主役がいなくなったら劇ができなくなる!」
レスタがそう呼びとめると、ディルクは振り返って叫んだ。
「もともとの主役はおまえだろ! だったらおまえが代役をしろ! 俺はそれどころじゃないんだよ!」
吐き捨てるように言うが、ディルクの言ったことは演劇部のメンバーが待ち望んでいた状況を実現するものであった。
――そう。
これこそが俺の狙い。
やはり、ディルクの俺に対する執着はまだ消えていなかった。立場的には圧倒的優位に立っているとはいえ、自分が狙っていたキアラやシャーロットが奪われたと思うと、必ずこちらを優先してくると読んでいたわけだが……まさか、ここまで綺麗にハマってくれるとは思ってもみなかった。
ディルクにバレないよう、演劇部員たちへ目配せをすると、彼らは揃ってペコリと俺たちへ頭を下げる。巻き込んでしまったキアラには申し訳ない気持ちもあったが、なぜかとても嬉しそうにしているのでヨシとしよう。
で、問題はここからだ。
ディルクを誘いだすように、俺たちは講堂をあとにし、農場方面へと駆けだした。あそこなら、他の学生を巻き込むことはないだろう。
案の定、ディルクは何の疑いもなく俺たちを追いかけてくる。
凄まじい執念だ……けど、俺ってそこまで嫌われるようなマネをしたかな。
疑問に思っているうちに、ジェニーと出会ったゴミ捨て場の穴がある場所までやってくる。そこで走る速度を緩めていき、ついにはピタリと止まった。
「ようやく観念したようだな」
俺たちがあきらめて立ち止まったと思ったディルクは、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら神剣を抜く。
「好都合だ。ここなら誰にも見つからないだろう」
まさか、この機に乗じて俺を物理的に消すつもりか?
「おまえのそのボロカスな剣では俺に傷をつけることさえ叶わないだろ?」
「っ!」
その言葉は、聞き捨てならなかった。
竜樹の剣があったからこそ、俺はここまでやってこられたのだ。
今は生まれ変わったばかりでうまく使いこなせていないが……あんなことを言われたんじゃ大人しく引き下がれないな。
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【お知らせ】
新作を投稿しました!
「騎士団の落とし物係」
https://kakuyomu.jp/works/16817139558453876790
戦いの終わった戦場で回収される《落とし物》から始まる物語で、5~6万文字の中編になる予定です。
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