第196話 迫る魔の手
ジェニーという少女はキアラの友人のようだ。
で、彼女と気まずい感じになってしまったのだが、事情をキアラへ説明すると、
「そんなことだろうと思ったわ」
とだけ言って軽くため息をつく。
さすがに付き合いが長いだけはあるな。
で、どうしてキアラがここへ来たのか尋ねてみると、やはり原因はジェニーにあるようだった。
話を聞くと、この後でジェニーが所属している学園の演劇部による発表が講堂であるとのこと。題材はこの国に古くから伝わる姫と王子の伝説――まあ、よくある悲恋物語ってヤツらしいが、ジェニーはその劇でヒロインを務めるというのだ。
「凄いじゃないか」
「えっ? い、いえ、その、あ、ありがとうございます」
演劇について詳しいわけじゃないが、ヒロインって役柄は間違いなく重要なカギを握るだろう。そんな役に選ばれたというなら、やっぱり凄いって表現で正しいはず。
ただ、どうにもジェニーの顔色がよろしくない。
その理由について、キアラが説明をしてくれた。
「本来なら、ジェニーの相手役――つまり、主役はこの子の恋人である男子生徒が務めることになっていたんだけど」
「キアラちゃん!?」
サラッと爆弾情報を投げ込んできたキアラに、ジェニーはひどく慌てた様子。
そこまで取り乱す内容でもないと思うのだが……どうやら、このジェニーという少女は俺が思っていたよりもずっと恥ずかしがり屋のようだ。
――気を取り直して。
キアラはコホンと咳払いをしてから話を続けた。
「ふたりの息の合った演技で本番を迎えるはずが……三日ほど前に横槍が入ったのよ」
心底嫌そうな表情でそう告げるキアラ。
その反応だけで、横槍を入れてきた人物が大体特定できた。
「もしかして……ディルクか?」
「正解」
やっぱりか。
あいつ……神剣を手にしてから、ロクな噂を聞かないな。
「ディルクは劇の主演を自分に変えるよう、演劇部に圧力をかけてきたって話よ。相手が神剣使いとなると、教師たちも強く言えだせないようで……」
キアラの口ぶりから察するに、恐らくスラフィンさんでもダメだったんだろうな。厳密にいうと、あの人は研究職で教職ではないから、そこに介入できる権限を持ち合わせていないだけなのかもしれないけど。
しかし、なんだってまたディルクは演劇に出ようって気になったんだろう。
「まさか……狙いは――」
俺はそこまで言って、キアラへと視線を移す。
それに気づいたキアラの視線は、ジェニーへと注がれた。
「えっ? な、何?」
いきなりキアラから見つめられて困惑するジェニー。
その仕草や表情から、俺は確信に至る。
……うん。
間違いないな。
「ジェニーもターゲットにしているのか、ディルクは」
「でしょうね」
キアラとシャーロットだけにとどまらず、ジェニーにまで手を出そうというのか。
オルランド家と神剣使いという立場がディルクを暴走させているようだが……これはちょっとシャレにならなくなってきたな。
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