第195話 トラブルの予感

 キアラたちを見送った後、俺はウィリアムスさんの手伝いとして学園農場の草取りに精を出していた。


「しかし、本当によかったのかい?」


 作業中、不意にウィリアムスさんがそう尋ねてくる。

 学園祭に参加しなかったことについてだろう。


「ディルクに見つかると、いろいろ面倒そうですからね」


 おまけに、あいつはキアラやシャーロットに目をつけているらしい。まあ、ふたりとも実家は有力だし、父上の入れ知恵もあるのだろう。……まあ、キアラの話だと、学園の女子に手当たり次第声をかけている節が見受けられる。そのうち、痛い目を見なきゃいいけど。


「だいぶ減ってきたな。そろそろこいつを捨てに行くか」

「あっ、俺が行きますよ」

「そうか? 悪いな。あっちに大きな穴が掘ってあるからそこに捨ててきてくれ。くれぐれも落っこちないようにな」

「分かりました」


 手押し車に山盛りとなっている雑草を捨てにいくため、俺はウィリアムスさんが教えてくれた場所へと向かう。


「おっ、ここだな」


 ゴミ捨て場として利用されている穴は、すぐに発見できた。

 そこへ手押し車を傾けて雑草を捨てると、すぐに戻ろうと振り返る。

 ――その時だった。


「うん?」


 視界に飛び込んできたのは、ひとりの少女だった。

 制服を着ているということは、この学園の学生さんらしいが……妙だな。学生たちは今頃学園祭で大盛り上がりのはず。それがどうして、こんな静かな場所へ? 迷い込んだってわけでもないだろうに。


 ただ、その表情からとても困っているというのは読み取れた。

 ……普段なら、間髪入れずに声をかける。

 助けてあげたいと心から思う。

 ただ、そのトラブルの陰にディルクの存在がチラホラ。

 というか、あの子……どこかで見たことがあるな。


「っ!?」


 あっ。

 まずい。

 ガッツリ目が合った。

 直後、女の子は全力疾走でこちらへと向かってくる。


「助けてくださいいいいいいいいいい!」

「えっ? あっ、ど、どうしたの?」


 いかん。

 その鬼気迫る泣き顔を目の当たりにして、思わず応対してしまった。これは間違いなく厄介ごとに巻き込まれるパターン。

 ――って、ちょっと待て。

 

「わあっ!? ス、ストップ!」

「へっ? きゃっ!?」


 一直線にこちらへ突っ込んできた彼女は足元がおろそかとなっており、その場に落ちていた雑草に滑って転倒しそうになる。

 俺は咄嗟に彼女の腕を掴むと、そのままこちらへと引き寄せる。その際、強く引っ張りすぎてしまったようで、背中から倒れ込んでしまった。幸い、そこにも草が積み重なっており、クッションのような役割を果たしてくれたおかげで無傷だった。


「だ、大丈夫か?」

「は、はい。すみません。ご迷惑をおかけしました……」


 正気に戻ったのと、抱きかかえるような格好になってしまったということに気づいた女子は顔を赤くする――が、まだハッキリと状況を理解していないようだ。……この子がどいてくれないと、俺が起き上がれないんだよなぁ。

 

 それとなく伝えようかなとしたら、


「ジェニー、どこに行ったの!?」


 慌てた様子で別の女子がやってくる――が、その声には聞き覚えがあった。


「っ!? ベ、ベイル!?」

「キアラ!?」


 誤解しか招かいような格好を目撃したのは、マルティナたちと一緒に学園祭に参加しているはずのキアラであった。

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