第194話 久しぶりの学園農場

 学園祭で盛り上がる中、俺たちはその喧騒を避けるようにして学園農場のある門から仲へと入った。

 すると、早々にある人物と再会する。


「ベイル! 久しぶりだな! みんなも元気そうで何よりだ!」


 学園の授業などで使う薬草の管理を任されているウィリアムスさんは、俺たちの来訪を知ると笑顔で駆け寄る。


「ご無沙汰しています、ウィリアムスさん」

「ははは、相変わらず真面目だなぁ」


 ウィリアムスさんは以前会った時と変わらず、豪快に笑い飛ばす。

 霧の魔女の一件で壊滅的なダメージを受けた学園の農場だが、俺のダンジョン農場で育てた薬草をいくつか譲渡し、その時は事なきを得た。それが縁となって、現在ではライマル商会を介してだが、交流は続いている。


 そんなウィリアムスさんに、まずは竜樹の剣が不調になったことを伝えた。


「お、おいおい、大丈夫かよ」

「心配いりません。御覧の通り、元通りですから」

「それはよかった――って、なんか前よりいかつくなってないか?」


 温泉でパワーアップしたことは伝えていないのだが、どうやら剣を見ただけで分かったらしい。さすがは学園の農場管理を任されているだけはある。


「そうなんです。それで、今日はこの新しくなった竜樹の剣の制御方法について、スラフィンさんからお話を聞けないかな、と」

「スラフィン先生かぁ……」


 途端に、ウィリアムスさんの表情が曇る。

 これに対し、真っ先に反応したのは娘であるキアラだった。


「マ、ママの身に何かあったんですか?」

「いやいや、心配することじゃない。ただちょっと、来客がいてな。今はその対応中なんだよ」

「そうだったんですね」


 そいつはタイミングが悪かったな。

 まあ、慌てる必要もないし、せっかくだから久しぶりに学園農場を見て回るとするか。 

 俺がその話をウィリアムスさんへ切りだそうとした時だった。何やら遠くから賑やかな話し声が聞こえてくる。


「? なんでしょう?」

「学園祭が始まったようですわね」

「えっ? そうなのか?」


 だとしたら、キアラやシャーロットは参加しなくてもいいのか?

 尋ねようとした時、相手もこちらの思考を読んでいたのか、ふたりと同時に目が合った。


「あたしたちのことなら平気よ」

「そうですわ。どうしても出なければいけないのは午後になってからですし」

「そ、そうか」


 ふたりは出番が回ってくるまでここで待機するつもりのようだが――問題はジッと声のする方向を見つめているマルティナたちだ。

 俺は彼女たち四人の様子を見てから、キアラとシャーロットにこっそりある提案をしてみた。最初は驚いたようだったが、すぐにこちらの意図を汲んでくれ、まずはキアラが切り出す。


「そんなに気になるなら、学園祭を見に行ってみる?」

「えっ? で、でも……」


 遠慮がちに一歩引くマルティナたち。

 だが、そこでさらにシャーロットの「ベイルさんからの提案ですわ」の言葉で状況は一変した。


「行ってきなよ。俺はここでウィリアムスさんの手伝いをしながら、スラフィンを待つから」


 せっかくの体験だ。 

 みんなには楽しんでもらわないと。


 と、いうわけで、ここからは二手に分かれることになった。

 

「じゃあ、雑草取りを手伝ってもらうとするかな」

「任せてください!」


 俺はウィリアムスさんと一緒に畑で汗を流す。

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