第191話 生まれ変わった竜樹の剣

 昼近くまでまったりとしていた俺たちだが、そろそろ生まれ変わった竜樹の剣の力を試してみることにした。

 ゲームにおけるこの泉の効能は、一定確率で武器の威力を上げるというものだが……今回については、直ってくれただけで御の字だ。これ以上の効果を期待するのは罰当たりというものだろう。


 ……それでも、ちょっとだけ期待してしまう。

 

「さて、と……」


 深呼吸を挟んでから、魔力を込める。

 握っている柄の部分からじんわりと熱が伝わってきた。

 ここまでは旧竜樹の剣と変わらないが……やはり、強化されることはなかったのか?


 ――と、思っていたら、突然、翡翠色をした魔力が溢れ出てきた。


「うわっ!?」


 慌てて魔力を遮断するものの、その影響を受けて俺の真後ろにあった樹木が急成長し、他に比べて数メートル分大きくなっている。


「す、凄いですね……」

「亀裂がふさがっただけじゃなさそうね……」


 大きくなった樹木を見上げながら、マルティナとキアラがそう呟く。

 強化されたことは素直に嬉しいんだけど……新たな問題が発生したな。


「これだけの魔力をコントロールするとなると……なかなか骨じゃぞ」


 ハノンの指摘は、俺が抱く懸念とまったく同じだった。

 竜樹の剣は、劇的な変化を遂げていた。

 これまで以上に強大な力となった以上……扱う俺自身のレベルアップも必要となってくるだろう。普段の農作業をする分には問題なさそうだが、霧の魔女やハノンの母親と戦った時のような力を出そうとすると、もっと魔力について学ばなければならない。

 学ぶ場所といったら――


「学園になるのか……」


 本来、俺が入学する予定だった王立学園ならば、これだけ強大な魔力を扱える術を教えてくれるのだろうか。


 ……まあ、わざわざ入学しなくても、キアラの母親であるスラフィンさんあたりに助言を求めてもいいかもな。


「大丈夫ですの、ベイルさん」

「あ、ああ」


 同じく学園に通っているシャーロットが心配そうにこちらを見つめる。

 その時、ふと思い出したのが従弟のディルクの存在だった。

 そういえば、あいつは今も学園にいるんだよなぁ……スラフィンさんからのアドバイスは欲しいけど、顔を合わせれば無駄に時間を浪費するだけだからな。事前に注意していかないと。


 学園といえば、前に霧の魔女によって管理している農園をめちゃくちゃにされたウィリアムスさんにも会ってみたいな。薬草のやりとりについてはライマル商会に任せているので、直接会う機会がほとんどなかったし。



 強化された竜樹の剣について、スラフィンやウィリアムスさんなど、懐かしい面々に再会して挨拶をするためにも、やっぱり一度学園に行ってみるか。


 そのことをキアラとシャーロットに告げると、


「いいんじゃない?」

「歓迎いたしますわ!」


 快く応じてくれた。

 マルティナ、ハノン、シモーネにとっても久しぶりの学園だし、アイリアに至っては初めてとなる。

 っと、その前にタバーレスさんやグレゴリーさんにも竜樹の剣について報告を入れておかないとな。


 さて、これからまた忙しくなるぞ!

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