第190話 新たな力

 夜明けが近づいてきた頃、竜樹の剣を浸しておいた温泉に異変が見られた。

 まばゆい輝きを放ち、魔力があふれている。

 ……いや、あふれすぎじゃない?


「なんだか……前よりも強力になっていないか?」

「奇遇ね。あたしもなんだかそんな感じがしていたわ」

「右に同じく」


 魔法使いであるキアラとシャーロットのふたりも感じ取っていたようだ。これもまた温泉の効能とでも言うのだろうか……それにしたって、強くなりすぎじゃないか?

 原作ゲームを何年もやりこんできた俺だが、温泉の利用したことはほとんどなかった。いや、そうであっても、このゲームの攻略まとめサイトとかによく顔を出していたし、強化されるなんて情報があるとしたら見逃さないはずだ。


 もしかして……これもダンジョン農場のようにバグの一種なのか?


「……とりあえず、手に取ってみよう」


 俺は未だに輝きを失わない温泉へ手を入れようとする――が、直前になってビビり、念のため、近くにあった小石を投げ込んでみる。

 その結果は……変化なし。

 めちゃくちゃな高温ってわけじゃないようだ。


 それでも、やっぱり少し怖くてゆっくりと手をつけてみる。

 

「お? いけそうだな」


 ここでようやく人体に影響はなさそうだと判断し、思い切って腕を突っ込んでみる。そして、底に沈む竜樹の剣の柄を掴むと、そのまま持ち上げた。


「おぉ……」


 手にしただけで分かる――明らかに前よりも強化されている、と。何より気に入ったのは、竜樹の剣を覆う魔力の質。これが劇的にグレードアップしており、そのためか、これまでとは違って魔力の色が緑色に変化していた。

 植物を自在に操れる力を持つ剣に相応しい色だと思う。


 さらに、新たな異変にシモーネが気づいた。


「あれ? なんだか剣のデザインが少し変わっていませんか?」

「えっ?」


 指摘され、改めて見てみると……確かに、前の時とちょっと違うな。以前は、そこらへんにあるちょっと大きめの木を剣の形に削った程度の物だったが、今は刃や柄の部分に模様が刻み込まれている。


「この模様は……」


 何か、意味があるように思うのだが、それが何なのかは皆目見当もつかない。

 

「見た目は多少変わったにしろ、以前にも増して農作業が捗りそうではないか」


 ハノンが事態まとめるように言う。

 ――でも、まったくその通りで、間違いなく強化された竜樹の剣があれば、これまでよりもさらに生産数を増やせるだろう。何せ、砂漠のオアシスで見せた樹神の剣に匹敵する魔力量だからな。


「タバーレスさんやグレゴリーさんにいい報告ができそうだよ」


 仲間たちと喜び合いながら、生まれ変わった竜樹の剣を眺める。

 すると、木々の間から淡い光が差した。

 どうやら夜が明けたらしい。


 俺たちは少し休憩をしてから帰還することにし、テントへ戻ることに。

 起きたら新生竜樹の剣の持つ力を確認してみるか。

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