第188話 完全復活はまだ遠い

 シモーネによって発見された武器を直せる温泉――と、思われる場所。

 そこで早速、亀裂の入った竜樹の剣が元通りになるのか試してみたのだが……なかなか効果が表れない。


「かれこれ十分くらい浸けているけど……あまり変化は見られないわね」


 温泉を覗き込みながら、キアラが言う。

 確かに、目立った変化はない。


 より詳しく調べるため、俺は一度竜樹の剣を温泉から出してみる。

 すると、


「あれ?」


 手にしてよくチェックしてみると、浸ける前よりも明らかに亀裂が小さくなっているのが分かった。


「べ、ベイル殿!? これって、ふさがってきていますよね!?」


 隣で見ていたマルティナも気づいたようだな。


「あぁ……ペースとしてはかなりゆっくりだが、間違いなく亀裂が小さくなっている」

「じゃ、じゃあ、やっぱりここの温泉は本物!? やったね、シモーネ!」

「お手柄ですわよ、シモーネさん」

「えへへへ……」


 アイリアとシャーロットから称賛されて、シモーネは照れ笑いを浮かべている。 

 もちろん、俺だって深く感謝していた。


「ありがとう、シモーネ。これなら、ダンジョン農場をこれからも継続して運営していけそうだ」

「そ、そんな、私は……」


 気恥ずかしがピークに達したのか、シモーネが小さくなっているように見えてきた。

 さて、とりあえずこれで竜樹の剣は元通りになりそうだが……問題は修復にかかる時間だな。亀裂の大きさと現在までに修復した規模から大体の時間を割り出すと――まだ二、三時間はかかりそうか。


「この調子で行くと、夜になりそうだな」

「と、すると……帰るのは難儀じゃな」


 ハノンが懸念する通り、問題は帰りだ。

 ここまではシモーネが臭いをたどってやってきたが、逆ンパターンは難しい。ドラゴンに変身した彼女に町まで飛んで行ってもらうことも考えたが、ドラゴンの姿を誰かに見られるのは極力避けたいところだ。


 ――というわけで、今日はこのまま竜樹の剣を見守りつつ、テントで一夜を過ごすことにした。


 まあ、無理をして帰ればたどり着けないこともないかもしれないが、うちのメンバーは外で寝泊まりするのが好きだからなぁ。みんなウキウキしながら準備を始めている。


 一応、ここに来るまでモンスターの姿は見なかったが、だからといって油断は禁物。キアラとシャーロットによって認識阻害魔法と結界魔法をかけてもらい、万全の体制で野宿へと入る。


 アリシアとハノンが竜樹の剣の見張り役となっている間、俺はキアラ、シャーロット、マルティナ、シモーネとともに近くの川へ夕食用の魚とりへ向かった。

 なんとか人数分の魚を確保すると、今度はその魚を焼くために焚火を準備。焼いた魚にはマルティナが常備している特性のタレをつけていただく。


「うっま!?」

「タレがいい感じに絡んで最高ね!」

「あ、ありがとうございます」


 シモーネに続き、今度はマルティナが照れる。

 竜樹の剣の完全復活を待ちつつ、すっかりキャンプと化してしまったな。


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