第187話 温泉の効能は?
生い茂る木々の向こうに、真っ白な湯気が見える。
どうやら、目的地にたどり着いたようだ。
「シモーネ……あそこが?」
「はい。私の感じ取った場所です」
心なしか、いつもより勇ましく思える立ち姿のシモーネ。そんな彼女とともに、温泉まで近づいていった。
「あっ! 待ってよ!」
その後から、キアラたちも追いかけてくる。
――だが、俺は竜樹の剣が直せるかもしれないという気持ちが先行してしまい、彼女のたちの到着を待たずに進んでしまった。
温泉が間近に迫ってから、ようやくみんなと距離が開いていることに気づく。
「わ、悪い、みんな」
「まったく……気持ちが焦っているのは分かりますが、こういう時こそ落ち着いて行動するものですわよ。――まあ、騙されたわたくしがいうのも変な話ですが」
「いや、そんなことないよ……ありがとう、シャーロット」
おかげで、どこか浮ついていた気持ちがキュッと引き締まった気分だ。
一度深呼吸を挟むと、ちょうどメンバーが揃う。
「よし……行こうか」
心を落ち着かせてから、ゆっくりと近づいていく。
そこは、かなり狭い温泉だった。
人間ならば、詰めに詰めて三人がやっとってところか。ただ、武器をおさめるにはちょうどいいサイズだし、深さはまずまずある。
「ベイル、早速試してみてはどうじゃ?」
「あ、あぁ」
ハノンに促されて、俺は早速温泉に竜樹の剣を浸ける。
――ここで直せるのは武器だ。竜樹の剣は「剣」という名前がついている以上、武器として扱われるべきなのかもしれないが、その能力は武器とは程遠い農業特化というものであった。
しかし、最近は竜樹の剣の力を戦闘に転用することもある。
現に、霧の魔女はその能力で撃退したわけだし。
果たして、この温泉の湯は竜樹の剣を武器として認めてくれるのか……祈るような気持ちで温泉を見つめていたら、
「おっ?」
湯に浸かる竜樹の剣に異変が見られた。
「な、なんか……光ってない?」
「そ、そうですね……光っていますね」
キアラとマルティナの言う通り、竜樹の剣は輝き始めていた。
「これって……修復が行われていることでいいのかい?」
「わ、分からない……」
俺はアイリアの質問に答えられなかった。この温泉を利用するのは初めてなので、これが正しい反応であるかハッキリと判断できなかったのだ。
ただ……嫌な感じはしない。
むしろ、この輝きにはどこか温かさというか、安堵感を覚える。
これは……期待できる結果が得られるかもしれない。
「でも……これってどれくらいの時間で直るのかしら」
「こればっかりはなんとも言えないな」
悪い方向へ進んでいるわけではないのだろうけど、だからといって修復が進んでいるのかもハッキリとしない。
問題の亀裂は――少しずつふさがっているような、そうでないような。
もうちょっと、様子を見てみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます