第186話 武器を直せる温泉を求めて

 新たに発覚した水竜シモーネの能力。

 温泉を嗅ぎ分ける力があるらしく、それを頼りに俺たちは渓谷地帯を進んで行く。


 トラップにかかった地点から歩きだして約三十分が経過した。


「ほ、本当にこっちでいいのか?」

「はい……だんだん臭いが強くなってきました」


 そう語るシモーネの歩みに迷いは見られない。どうやら、本当に温泉の気配を感じ取っているようだ。


「シモーネ……随分と自信があるようだけど……本当に大丈夫かしら」

「今はあやつを信じて進む以外に術はないじゃろ。それに、間違えたのならまた探し始めればいいだけじゃ」

「まあ、それはそうなんだけど」


 キアラは半信半疑といった感じだが、アルラウネであるハノンはシモーネほど明確ではないにしろ、何かを感じ取ってはいるようだ。


 さらに進むと、ついに道らしい道はなくなり、歩くのも困難なほど草木の生い茂った場所へとたどり着いた。


「シモーネ……」

「――まだです。まだ、この先です」


 どうやら、ここを突破する必要がありそうだ。


「みんな、はぐれないように注意してくれ」

「迷子になったら面倒だからね」

「それなら、手をつないで進みましょう」

「名案ですわね、マルティナさん」


 マルティナからの提案により、俺たちは手をつないで進むことに――したつもりだが、


「ちょっと、キアラさん! ベイルさんにくっつきすぎですわよ!」

「足場が悪いんだからしょうがないでしょ! 不可抗力よ!」

「キアラの言う通りだね。じゃあ、僕もベイルにもっとくっつくとしよう」

「そ、それじゃあ、私も失礼してベイル殿に……」


 シャーロット、キアラ、アイリア、マルティナにべったりとくっつかれてしまい、ある意味、茂みを進むより歩くのが困難な状況に。


「お主ら……それでは本末転倒じゃろうが」


 見た目だけなら一番年下のハノンにたしなめられる四人。

 ……気を取り直して。

 俺たちは周りを十分警戒しながら、ゆっくりと、しかし着実に前進して武器を直せる温泉を目指す。だが、道はどんどん険しくなっていき、一歩踏み出すのもやっとという状況にまでなってきた。


「さすがにこれ以上は厳しいか……?」

 

 額の汗を腕で拭いながら、思わずつぶやいた。

 それを耳にしたシモーネはこちらへ振り返ると、


「もうちょっとです、ベイルさん。頑張りましょう」

 

 と励ましてくれた。


「! あ、ああ! この調子で案内を頼むぞ、シモーネ」

「お任せください」


 あのシモーネが……ここまでの成長に感激する一方、それほど自信があるのだとホッとする自分もいた。


 今のように、みんなでダンジョン農場を楽しく運営していくには、竜樹の剣の復活が絶対不可欠。そのために、なんとかして武器を直せる温泉を探しださなくてはならない。


 で、そのゴールは確実に近づきつつあった。

 さらに進むこと約十分。


「あっ!」

 

 先頭を行くシモーネが声をあげる。

 何事かと前方を覗き込んでみたら――そこには立ち昇る湯気が。


 どうやら、目的地にたどり着いたらしい。

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