第185話 隠された能力

 シャーロットを傷つけられたことでシモーネがマジギレし、水竜の姿となって男たちに強烈な雄叫びを浴びせた。

 たったそれだけで、男たちは腰を抜かしながら散っていく。

 所詮は実力のないチンピラがたかろうとしたってだけか。


「うぅ……シモーネさん、わたくしのために」


 普段、メンバーの中で一番大人しく、心優しいシモーネが、自分のために怒って水竜の姿となり騙した男たちを撃退した。この事実が、シャーロットの罪悪感で傷ついた心を癒したのだ。


「たったひと吠えで戦況をガラリと変えてしまうとは……さすがは竜人族だ」


 俺たちとしてはシモーネのドラゴン形態を見慣れているし、これまでも彼女のおかげで何度か助けられているから特に驚きはしないが、まだ加入して日の浅いアイリアには新鮮に映ったようだ。


 そういえば、オアシスの時は花粉の毒で戦闘どころじゃなかったからな。

 シモーネの真の力を目の当たりにしたのはこれが初めてか。

 まあ、今回は威嚇だけで相手は逃げ帰ったが、実際に戦ってみてもシモーネはかなり強いからな。

 林業が盛んなエーヴァ村で起きた虫型モンスターによる被害も、ドラゴン形態になったシモーネが一瞬でケリをつけたし、その後のネイサン村の事件だって、村人を拘束していた傭兵たちをさっきみたいにひと吠えで怖気づかせている。


 戦闘面に関して、シモーネはもはや欠かせない存在となっていた。


 そんなシモーネの活躍により、事態は解決。

 ……とはいえ、武器を直せる温泉探しは振出しに戻ってしまった。


「どうしましょうか、ベイル殿」

「……町へ戻ってまた情報を集めよう。もしかしたら、新しい情報が入っているかもしれないし。それで特に何もなかったら、自力でそれらしいところを調べていこう」


 それがベストな行動だと思う。

 どちらも決定打に欠けるが……地道にやっていくしかないよな。

 言い聞かせるように心の中で呟いてから、来た道を戻ろうとした時だった。


「? どうかしたのか、シモーネ」


 ドラゴン形態になっているシモーネが、人間の姿に戻ろうとしない。

 ここに来るまで結構距離があったから、そのまま飛んで戻ろうとしているのかな?

 でも、あまり町の近くでドラゴンの姿が人の目につくと説明が厄介ではある。


 ――と、思っていたら、何やら事情は異なるらしい。

 シモーネは鼻をピクピクと小刻みに動かしながら辺りを見回していた。まるで何かを探しているように見える。


「ほ、本当にどうしたんだ、シモーネ」

「ベイルさん……何だかおかしな臭いがするんです」

「おかしな臭い?」

「たぶん、温泉だと思うのですが」

「へっ?」


 予想もしていなかったシモーネの言葉に、思わず間の抜けた声が漏れる。確かに、温泉は独特な臭いだけど、それを嗅ぎ分けられるっていうのか?

気を取り直して、俺は改めて尋ねてみた。


「温泉って……臭いが分かるのか?」

「人間の姿でいる時は感じなかったんですけど……今ならハッキリと分かります」


 どうやら、ドラゴン形態でなければその力は発動しないらしい。

 俺たちと一緒に生活するようになってからは、本当に非常事態の時くらいしかドラゴンにならなかったし、温泉にも行ったことがなかったのだろう。


 よく考えれば、温泉ってお湯の集まりだからな。

 水竜シモーネならば、普通の水と温泉の区別くらいついても不思議じゃない。


「シモーネ! その臭いのする場所へ案内してくれ!」

「分かりました!」


 もしかしたら、これは決定的な手がかりとなるかもしれない。

 はやる気持ちを抑えつつ、俺たちはシモーネの導く先へと向かって進んだ。

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