第184話 怒りの水竜
「やあやあ、よくここまで来てくれたね」
現れたのは初老の男性。
……うん?
もしかして――
「あ、あなたは! わたくしたちに情報を教えてくださった優しいおじさま!」
やっぱり、シャーロットたちにガセ情報を与えていたヤツか。俺たちの探している武器を直せる温泉はその希少性から、この手の類も多いと聞くが……どうやら、俺たちもそうした連中の罠にハマったらしい。
――それと、騙したのはひとりだけじゃない。
あの男が姿を現したことが引き金となったのか、続々と武装したおっかない顔つきの男たちが集まってきた。……俺たちは取り囲まれたらしい。
「いやぁ、今日はツイているなぁ。いつもならバカっぽい冒険者連中から金品を巻き上げるだけで終わりだが……今日はこんなにたくさんおまけがついている」
そこで、俺はハッと気づく。
目の前の老紳士や男たちの下卑た視線が、俺以外の全員に向けられていることを。
こいつら……みんなに手を出す気だな。
「うぅ……ごめんなさい……わたくしは……」
自分が嘘の情報を信じたばかりに、窮地に陥ったと責任を感じている様子のシャーロット。
だが、それをフォローするようにシモーネとアイリアが声をかける。
「シャーロットさんの責任じゃないですよぉ」
「そうとも。僕らも同罪だ。君だけがすべての責任を背負うなんて間違っている」
「シモーネさん……アイリアさん……」
三人は泣きながら抱き合った。
これぞまさに友情。
今回の件をきっかけに、三人の絆はより強固なものになっただろう。
「茶番はそれまでにしてもらおうかな」
っと、すっかり男たちの存在を忘れていた。
無視してこちら側が盛り上がっているのが気に入らないらしく、少しイラついているようだな。
「こいつら……よくもシャーロットを泣かせたわね」
誰よりも怒りをあらわにし、ブチ切れ寸前なのはキアラだった。なんだかんだ言って、シャーロットのために行動しようとしている辺り、普段はケンカしていても、本当は仲が良いっていうのがうかがえるな。
……あと、俺やマルティナ、そしてハノンもキアラと同じ気持ちだ。
「よくも仲間を騙してくれたな」
「容赦はしません!」
「さて……どう料理してくれようかのぅ」
「おやおや、勇敢だねぇ」
俺たちが武器を手にして戦闘態勢に入ると、男たちから失笑が起こる。
完全に見た目だけで俺たちの実力を計っているな?
いつ仕掛けようか、慎重にタイミングを探っていたその時――背後で凄まじい気配を感じた。
「許しません……」
シモーネだ。
その瞳はすでに水竜のものへと変化している。
――やがて、シモーネの全身は光に包まれ、ドラゴン形態へと変化した。
「グオオオオオオオッ!」
雄々しい咆哮が渓谷に響き渡る。
世にも珍しい、シモーネのマジギレだ。
「……へっ?」
突然現れた巨大な水竜を前に、男たちの戦意は一瞬にしてへし折れた。
すぐさまキアラが拘束魔法で連中の動きを封じ込め、これにて一件落着。思っていたよりも数倍呆気なく決着がついたのだった。
こうして、俺たちは被害なく詐欺集団を捕まえたのだが……結局、武器の直せる温泉探しは振出しに戻ってしまったのだった。
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