第183話 ガセ情報?

 シャーロットたちが持ち帰った情報を頼りに、俺たちは「北にある渓谷」を目指して進んだ。


 ……とはいえ、その情報もかなりざっくばらんとしたものだ。

 実際にどの辺りにあるのか――それは現地に足を運び、この目で確かめながら探すしかないだろう。


「北の渓谷は……この辺りのはずです」


 マルティナが地図を片手にそう告げる。

 確かに、周りの状況からしてここがその渓谷なのだろうが、温泉らしい場所はどこにも見当たらなかった。


「どうやら、ガセ情報だったみたいね」

「ま、まだ、判断を下すには早計ですわ!」

「でもねぇ……」

「辺りをくまなく探せばきっと見つかるはずですわ!」


 まあ、シャーロットの意見も分からなくもない。

 今現在、俺たちは高い位置から渓谷を見渡している。そこからは全体の姿を見ることができているが、細部まではチェックできない。これから渓谷へとさらに近づき、もっとよく調べていけば、シャーロットの言うように見つけられるかもしれない。


「……どのみち、一日二日で発見できるとは思っていなかった。今は少しでも可能性があるのなら、それに委ねてみたいと思う」

「まあ、ベイルがそう言うなら……」


 キアラは俺の意見を汲んでくれた。

 他のみんなも、渓谷に近づいてより詳しい調査をするという方向で賛成してくれた。


「モンスターの気配はなさそうだが、気を引き締めていこう」

「そうじゃな。……つい最近も不意打ちでひどい目に遭ったからのう」


 ハノンの言葉には実感がこもっていた。

 それはきっと、オアシスでの一件から来ているのだろう。今となっては、母親と姉のふたりともダッテンの村で人間と暮らしている。これから先、まだまだ乗り越えなくてはならないことがあるのだろうが、その解決も時間の問題だろう。


 砂漠での一件を思い出しながら、俺たちは渓谷を進む。

 それっぽい場所を発見すると、その周囲を調査する――が、空振りが続き、なかなか温泉を発見することはできなかった。


「やっぱりガセだったんじゃ……」

「うぅ……あともうちょっと!」


 シャーロットはムキになっているが、時間が経つほどに可能性はドンドン薄れていく。

 ――ただ、今の俺は温泉が見つからないという以外に、気になっている点があった。


「何か……見られている感じがするな」

「お主もそう思うか、ベイル」


 他のみんなは気づいていないようだが、ハノンだけは俺と同じようにある異変を捉えていたようだ。


「どうかしたのかい?」

「何かありましたかぁ?」


 俺とハノンが辺りを気にしていることを不審に思ったのか、アイリアとシモーネがそう尋ねる。さらに、キアラ、マルティナ、シャーロットの三人もそれに反応して集まってきた。


 全員が揃ったところで、俺たちが感じたある違和感について話すことに。


「誰かが俺たちを見張っているようだ」

「ど、どういうこと?」

「シャーロットに与えた情報とやらは……いわば撒き餌じゃな」

「そ、それって……」


 ハノンがそう告げた直後――その「撒き餌」の主が俺たちの前に姿を現した。

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