第179話 親子のこれから

 翌日。

 俺たちは再びダッテンの村へと戻ってきた。


 ――もうひとつのお願いについては、なんとかタバーレスさんに受け入れてもらうことができた。正直、向こうの立場からすると結構ギャンブルめいた判断だったと思うが……その辺は俺がきっちり責任を負うことでなんとか許可がおりたのだ。


 そのお願いは……ふたりのアルラウネについて、だ。


 ハノンの母親であるママラウネ。

 そして姉妹である赤い髪のアルラウネ。


 名前もまだ決まっていないふたりは、オアシスを失った。ママラウネの方は著しく魔力を失っているため、以前のように砂漠の真ん中に森を生みだすというようなことはできなくなっていた。


 しかし、それでもまだ土壌を管理する力は残っている。

 それは竜樹の剣でも使える能力だった。

 赤い髪のアルラウネ曰く、性格は以前のように大人しくなっているということだったので、俺は彼女たちにある提案を持ちかけた。



 それは――ダッテンの村の農場を管理する役目だ。



 竜樹の剣が修復できるかどうか、その目途もハッキリとついていない状況でなんとかこの村に農業を広めたい。そんなタバーレスさんの願いを叶えるために、ふたりのアルラウネに協力をしてもらおうと計画したのだ。


 ――と、いうわけで、早速ふたりのアルラウネとダッテン村の人々を引き合わせることに。


「あ、あの……よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」


 緊張しているママラウネに対し、警戒しているエドワーズ村長。

 無理もない。

 人間の姿をしているが、一応モンスターなわけだし。――とはいえ、両者の反応はすでにこちらも予測済み。ママラウネにはこの状況を一変させるため、ある秘策を伝授してあった。

 それを実行するため、ママラウネは自身の魔力を地面へ流し込む。


「えいっ!」


 可愛らしいかけ声が聞こえたかと思ったら、突然、一輪の小さな花が咲く。砂漠の砂でありながらもこんな芸当ができるのは、植物を操れるアルラウネだからこそだ。


「おおっ?」


 エドワーズ村長をはじめ、村の人たちはその美しくも可愛らしい小さな花に魅了される――が、これはまだまだほんのあいさつ代わり。

 続いて、ママラウネはさらに一輪、もう一輪と花の数を増やしていく。

 やがてそれは小さな花畑を生みだした。


「す、凄い……!」


 農場近くにできた即席の花畑を見て、村人たちは大興奮。

 特に小さな子どもたちは大喜びで駆け回った。


 作戦は大成功。


 村人とふたりのアルラウネの距離は一気に縮まったのだった。


「ママ、みんな喜んでくれているわ」

「え、えぇ、そうね」


 ふたりのアルラウネも、村人たちに受け入れられたようでホッと安堵していた。これからは彼らに名前も決めてもらい、この村で人間と協力しながら生活していけるだろう。


「よかったのぅ」

「ありがとう、ハノン」

「いや、ワシは何もしておらんよ」


 母親から感謝されるも、クールにそう答えるハノン。

 まあ、彼女にしても、比較的近い位置に家族がいるのは喜ばしいことだろう。話が弾んでいるのがいい証拠だ。



 こうして、ヒデル温泉郷へ向かう前に気になっていた点は解決。

 あとは――竜樹の剣を直すだけだ。

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