第177話 ダンジョン農場解散の危機!?

 竜樹の剣に起きた異変。

 まさかヒビが入るなんてなぁ……おまけに、発生した亀裂から魔力が漏れてしまい、下手に使おうとするとヒビがさらに大きくなってしまうという悪循環。

 竜樹の剣は文字通り竜の亡骸で成長する特殊な樹木を用いて作る剣――そのため、普通の剣のように、鍛冶屋へ持って行けばいいという問題でもない。

 

「本当に……ごめんなさい」


 ハノンの母親のアルラウネ――通称・ママラウネ(命名はシャーロット)は、事態を把握するとペコペコと頭を下げて平謝り。

 ……オアシスで対峙していた時とはまるで別人のように腰が低く、丁寧な物言いになっていた。ハノン曰く、魔力が安定しなかったため、精神的にも不安定になっていたと解説してくれたが……そういうものなのかな。


 とりあえず、ママラウネに直し方を知らないか尋ねたが、


「ごめんなさい……」


 とだけ返された。

 その少ない謝罪の言葉に、すべてが込められている。

 竜樹の剣はもう直らない――と。


 原因は分かっている。

 ……俺が無茶をしたからだ。

 樹神の剣という没データを呼び起こして剣を強化したツケがきたのだ。

 それはママラウネも重々承知しているようで、申し訳なさからひどく落ち込んでいた。ハノンや赤い髪のアルラウネがフォローしているが……なかなか難しそうだ。


「あの……ベイル殿」


 おずおずと声をかけてきたのはマルティナだった。


「竜樹の剣がそうなってしまったということは……」

「……残念だけど、ダンジョン農場を続けていくことはできそうにないな」

「「「「「「!?」」」」」」


 マルティナ、キアラ、ハノン、シモーネ、シャーロット、アイリア――六人の表情が一気に凍りついた。

 とはいえ、みんな薄々は勘づいていたはずだ。

 俺が竜樹の剣の力を駆使して農作業をしていたことを誰よりも近くで見続けてきたんだからな。

 ――仮に、普通の農場であったなら、或いは竜樹の剣がなくても続けられたかもしれない。生産量は落ちるし、きっとグレゴリーさんや学園との専属契約も切れてしまうだろうけど、なんとかやっていけるかってくらいか。

 しかし、現在地がダンジョンという場所だけに、どうしても竜樹の剣の力に頼らざるを得ない。


「な、何か方法はないのかしら……」

「キ、キアラさんのお母様に相談してみてはいかがでしょう? 高名な魔法研究家と聞いていますわ」

「残念だけど、ママも竜樹の剣についてはまったく情報を持っていないのよ。というか、専門外だしね」

「そ、そうですか……」

 

 再び重苦しい空気が俺たちを包む。

 ……思い出せ。

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中で、武器を修復する手段は鍛冶屋への持ち込み以外になかったか?

 そもそも、このゲームに戦闘要素なんてほとんどないからなぁ……スローライフが謳い文句だし。武器だって、たまに狩猟で使う程度で――


「あっ」


 狩猟。

 そうだ、狩猟だ。


「あるかもしれない……竜樹の剣を復活させる方法が」


 このひと言に、周りは騒然となった。

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