第176話 まさかの事態

 ママラウネが正気と本来の魔力を取り戻し、レーム砂漠に平和が戻った。

 シモーネもキアラとシャーロットの治癒魔法が効いてくれたおかげで症状は重くなく、もう少し休んでいれば元気になるだろう。


 いろいろなことが今回の遠征だが、ハノンの母親との再会、そして竜樹の剣の新しい力――ピンチはあったが、同時に得る物も大きかったな。



 砂漠の村・ダッテンへ戻ると、早速エドワーズさんへ事情を報告。


「ほ、本当ですか!?」


 驚いていたエドワーズさんであったが、オアシスが消滅しているのを見て俺の言っていたことが事実だと信じたようだ。

 この結果は、ダッテンに住む人々にとっても喜ばしい結果となった。

 寄り道をしたけど、これでオアシスでの農業が可能になったわけだからな。


 ハノンたちや他のアルラウネたちはまだこちらへ合流していないが、とりあえず先に農場の方がきちんと竜樹の剣で土壌改良できるか、試してみようと思う。


 場所を移動し、オアシス近くの農場予定地まで来ると、


「では……」


 俺は竜樹の剣に魔力を込めるとそれを地面へ突き刺す。

 そして、


「はあっ!」


 魔力を解き放った瞬間、農場予定地とされている場所の土壌は素人目にも分かるくらい大きな変化が起きていた。

 それを見たエドワーズ村長はその土に触れると、


「おぉ! 素晴らしい!」


 思わずそう叫んだ。


「サラサラの砂が水気を含んだ土に……いやぁ、お見事です!」

「いえ、うまくいって何よりですよ」


 竜樹の剣が本来の力を発揮できれば、これくらいのことは朝飯前にできる。――だが、ここで思わず自体が発生。

 すべては、


ピシッ!


 という何かが割れるような音から始まった。


「えっ?」


 恐る恐る、俺は音のした方へと視線を向ける。

それは――竜樹の剣であった。


「ベ、ベイルさん!?」

「ちょ、ちょっと、ベイル……それ!」

「あわわわ!」


 異変に気づいたのはマルティナ、キアラ、シモーネの三人。

 当然、竜樹の剣を見つめる俺にも、それはハッキリと捉えられていた。


 竜樹の剣に……ヒビが入っていたのだ。


「マ、マジか……」

 

 俺は慌てて魔力を込める。

 たとえヒビが入っていたとしても、これまで通りに使えるなら何も問題はないと思ったからだ。

 ――しかし、俺のこの考えは甘かった。


 ピシピシピシッ!


 なんと、魔力を込めた途端にヒビがさらに大きくなっていったのだ。


「うわっ!?」


 慌てて魔力を遮断し、事なきを得たが……これは非常にまずい展開となった。

 直そうにも、刀鍛冶に依頼して元通りになるものじゃないしなぁ。


これまでやってこられたのは、ひとえにこの竜樹の剣が持つ力のおかげ。だが、その力を使い果たしたのか――いや、原因は間違いなく、一時的とはいえ、樹神の剣に昇華させたことが原因だろう。


 あれはゲームの没データ。

 つまり、本来はこの世界に存在しえない物。

 緊急事態とはいえ、それを無理やり呼び起こしたことへの弊害といえた。


「これは……困ったな」


 最大のピンチ到来。

 さて……どうやって乗り切ったものか。

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