第174話 樹神の剣

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の没データ――あまりにも強すぎてお蔵入りとなった樹神の剣は、俺の想定を遥かに超える能力を有していた。


 どれくらいヤバいのかというと……ハノンの母親であるアルラウネが生みだした森林を一瞬にしてなかったことにしてしまうくらい。ゲームでたとえるなら、まさにバランスブレイカーと呼ぶに相応しい力だ。


「あ、あり得ない……」


 辺りが一瞬にしてもとの砂漠に戻ったことで、アルラウネは茫然自失。

 そりゃそうだろうな。

 何せ、本当に瞬きをしている間に自分の住処が消失してしまったのだから。相手からすれば悪い夢とさえ思えるだろう。


 だが、これは現実だ。

 樹神の剣の力だ。


 ――が、ここでその樹神の剣に異変が。

 それまで剣を覆っていたエメラルドグリーンの魔力が消えてしまい、もとの竜樹の剣へと戻ってしまう。


「ここまでか……」


 言ってみれば、これはガス欠の状態だ。

 すべての力を使い果たしたらしく、同じようなマネはできないだろう。これは俺の基礎魔力量を増やす必要がある。


 とりあえず、竜樹の剣に戻ったことを悟られないよう、俺は強気の姿勢でアルラウネと対峙する。


「終わりだな」

「ぐぅ……」


 悔しそうに、その場へと跪くアルラウネ。

 どうやら、これ以上の抵抗はできないらしい――というより、いきなり砂漠に放りだされたことでかなりのダメージを負っているようだ。

 ハノンは持っていた水筒で水分補給を行えるため、影響はない。

 ……あと、この場にもうひとりだけ、この炎天下の影響を強く受ける存在がいた。


「くっ……」


 それが赤い髪のアルラウネだ。

 彼女は俺たちと母親アルラウネとの戦いをずっと複雑な表情で静観していた。何かしてくるかもしれないと警戒をしていたが……実際、彼女はただ見ているだけで何もしてこなかった。


 これが母親アルラウネからの指示なのか、それすら分からないが、いずれにせよピンチであることには変わりない。


「これを飲むんだ」


 そう言って、俺は自分の水筒を差し出す。

 さすがに最初は俺の行動を止めようとしたマルティナやアイリアであったが、すぐにそれをやめる。恐らく、ふたりは理解しているのだ――俺がどんな人間であるかを。


「私に水を……?」

「このままだと枯れちゃうぞ?」

「ありがとう……」


 枯れるという言葉がよっぽど効いたのか、赤い髪のアルラウネは俺から水筒を受け取ると凄い勢いで飲み始める。


「うぅ……」


 一方、母親アルラウネの方も乾きのせいで苦しそうだ。

 ――その時、


「これを飲むといい」


 ハノンが水筒を母親アルラウネへと渡す。


「ど、どうして……」

「お主はワシの母親じゃろ? ……それに、もう抵抗する気力さえ残っていないのはお見通しじゃ」

「ハノン……」


 涙声で名を呼んだ母親アルラウネ。

 水を飲み終えると、その体が急に輝き始めた。


「こ、これは!?」


 果たして、彼女の身に何が起きたというのか。

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