第173話 打開策
竜樹の剣に隠された力。
ゲーム本編では実装されておらず、言ってみれば没データってわけだが……確実にデータ自体は残っている。以前、開発者のひとりがSNSでそう発現していたのを覚えていたのだ。
――とはいえ、それも全面的に信用ならない。
そもそも、ゲームの登録者数を増やすための方便だった可能性もあるのだ。
……この状況ではそれに一縷の可能性をかけるしかない。
俺たちにとって、それは最後の希望。
成功するかどうかはやってみなければ分からないというギャンブルめいたものであったが――俺はその賭けに勝った。
「これが……樹神の剣だ!」
美しいエメラルドグリーンの光が全身を包み込む。
樹神の剣。
それは、竜樹の剣のもうひとつの姿でもあった。
一応、ビジュアル自体は公開されており、具体的な実装の日にちも決まっていた――が、開発途中でゲームバランスを崩壊させるほどの致命的なバグが見つかったと公式が発表して実装が見送られたのだ。
それから数ヶ月経っても、一向に樹神の剣がゲームに登場することはなかった。
……だから、今俺が持つ樹神の剣は、そのバランスを崩すほどの力を残したままの状態になっているってわけだ。
「樹神の剣!? なぜ人間がそのような力を!?」
アルラウネのこの反応を見る限り、その推測は間違っていなかったようだ。恐らく、竜樹の剣から放たれる魔力の質が向上したことで、アルラウネは事前にこの剣の存在に気づいたのだろう。
だが、それを知らない他のメンバーは驚きに茫然としていた。
「そ、そんな力があったなんて……」
シモーネを治療中のキアラが呟く。
……まあ、最初から自由に扱えているのなら出し惜しみなんてしなかったけど――今はそれどころじゃないからな。
「ハッキリ言って、こいつは未知数な部分が多い。だから、むやみやたらには使えないと思っていたんだけど……」
「今はむやみやたらに使うべき時ですわ!」
「その通り!」
シャーロットが言うように、今はとにかくみんなを救いだすことに専念しなくてはならない。
このまま黙ってハノンを受け渡してなるものか。
俺は樹神の剣を地面へと突き刺す。
そこまでの順序は竜樹の剣と一緒だが――ここからが違う。
「このオアシスは……すでに俺の支配下にある」
強化版竜樹の剣であるこの樹神の剣は、その圧倒的な魔力で大地を己の支配下に置くことができる。ゲームではこれによっていかなる魔法も無効化し、こちらが上塗りできるという。
――つまり、アルラウネが生みだしたこのオアシスは、すでに俺のオアシスへと変わっていた。
だから――こんなことだってできる。
「こっちの偽物のオアシスには消えてもらう」
そう告げると、辺りの木々は途端に砂の中へと飲み込まれ始めた。
「な、何!? バカな!? 私のオアシスが!?」
さすがに、オアシスが丸ごとなくなるのは想定外だったみたいだな。
でも、これはまだほんの序章に過ぎない。
樹神の剣の強みは、まだまだこんなものではないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます