第172話 最悪の事態
「ワシの仲間たちに対するあのような仕打ち――看過できんな」
「なら……どうする? 私と戦う?」
アルラウネは余裕の態度を崩さない。
まだ、何か力を隠しているのか……こちらとしては完全にアウェーとなるため、後手に回ってしまうが、だからといってここで退くわけにはいかない。
俺たちの代わりに花粉を浴びたシモーネは、未だにドラゴン形態のままでいる。意識がないようだ。
キアラとシャーロットが治癒魔法で応対しているが、それにも限界があるだろう。
早めにヤツを倒して、このオアシスから脱出しなくては。
そのために――
「頼むぞ……竜樹の剣!」
俺は再び竜樹の剣を地面へと突き刺す。
ウィドリーの力で、アルラウネの動きを封じようとした――が、
「無駄よ」
植物の扱いに関しては、向こうの方が上だった。ウィドリーの根は軽くあしらわれ、切り札であるシモーネは戦闘不能ときている。
絶体絶命。
俺たちは完全に追い込まれていた。
「どうやら、手詰まりのようね」
「くっ……」
抵抗の術が失せたことを見抜いたアルラウネは勝利の笑みを浮かべる。
だが、そこに待ったをかけた者がいた。
「相談がある」
ハノンだ。
「相談? 何かしら?」
「お主の狙いはワシじゃろう ――ならば、ワシだけを狙えばいい。他の者たちはこのオアシスから帰してくれ」
「っ!? ハノン!?」
自らの身を差し出して、俺たちを救おうとするハノン。
……けど、それでは意味がない。
意味がないんだ。
「竜樹の剣の力……」
俺は必死にゲーム知識を思い出してみる。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】では、圧倒的なチートアイテムだった竜樹の剣――だが、こういった状況を打破するほど力があるかといえば難しい。
……本当にそうだろうか。
もう何もできないのか?
剣を強化するアイテムとか、何かないのか!
必死になって魔力を竜樹の剣に注いでいると――突然、ある感覚が湧き上がる。
「っ! これは……」
浮かび上がった、ひとつの可能性。
それは、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】では実装されていない――いや、実装される予定だったが没になったデータがある。
今、俺が抱いている違和感。
この場を覆せるかもしれない、秘められた力。
それを解き放とうとしている。
「ベイル……今まで世話になったな」
「……まだ、お別れには早いぞ、ハノン」
「何?」
俺はアルラウネの前に立ちはだかる。
このままハノンを連れて行かせるか。
「抵抗する手段は――まだ残っている」
「そうかしら? もう万策尽きたように見えるけど?」
やはり余裕の態度は変わらないアルラウネ――だが、先ほどまでとは質の違う魔力に、その表情はだんだんと変化を見せるようになった。
「あ、あなた……それは!」
「竜樹の剣の隠された力ってヤツだ」
ゲームには実装されていない、都市伝説めいた竜樹の剣の没データ。
それを――今、解き放つ。
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