第171話 シモーネの覚悟

 ハノンとその母親のアルラウネ。

 両者の間に流れる穏やかな空気――それに、俺たちは思わず油断してしまった。


 地中から伸びてきたのは、巨大な根だった。

 まるで、竜樹の剣で生みだした神種の能力に似ている。


「っ!? ま、まさか!?」


 神種と酷似した能力を持つ、アルラウネの母親。

 彼女は……神種ウィドリーの成長した姿なのか!?


「神種のひとつがアルラウネだったなん――て!」


 襲いかかる根を竜樹の剣で払いながら、周りの様子をうかがう。

 キアラとシャーロットは炎魔法を駆使して根を焼き払い、マルティナとアイリアは得意の剣術で斬り捨てる。

 この調子なら、本体であるハノンの母親へ反撃もできるが――いくらなんでも攻撃が単調すぎやしないか?

 なんだか、まったく別の意図を感じるような気がする。

 その時、ふと見上げると、そこには大きな花が咲いていた。


「えっ?」


 なぜそこに花があるのか。

 一瞬、理由は分からなかったが――すぐに異変が起きる。

 頭上に咲いた花から、まるで雨のように花粉が降り注いできたのだ。


「しまった!?」


 あの花粉がもし猛毒だったら――そう思うと、背筋がゾクッとする。

 みんなも花粉に気づいたが、だからといって防ぎようがなかった。あれが魔法とか剣とか、そういった類の攻撃ならばどうとでも対応できただろうが、さすがに花粉は予想できていなかった。

 そのため、どう対処したらいいのか、誰にも分らなかったのだ。

 完全に動きが止まる俺たちに迫り来るアルラウネの花粉。

 だが、その時、



「みなさん、その場にしゃがんでください!」


 

 シモーネが叫ぶ。

 突然の声に戸惑いながらも、俺たちはその言葉に従った。


 直後、辺りが暗くなる。

 視線を上に向けると、そこにはドラゴン形態となったシモーネが。


「シ、シモーネ!?」


 ドラゴン形態になったシモーネが、俺たちを降り注ぐ花粉から守るように覆いかぶさっていたのだ。

 だが、そうなると当然、シモーネがすべての花粉を浴びることになる。


「うぅ……」


 苦しそうな声が漏れる。

 それを耳にした時、俺の中で何かが弾ける。

 シモーネを助けなくては。

 その強い気持ちが俺を突き動かし、竜樹の剣を地面に突き刺していた。

使うのは――神種ウィドリー。


「いっけぇ!」


 ウィドリーが生みだす無数の蔓が、頭上の花へとまとわりつき、そのまま地中へと引きずり込んだ。これなら、花粉が周囲に飛び散る心配はない。


 俺はすぐに次の神種を埋める。

 それは、癒しの力を持つボッシュの種だ。


 完治するかどうかは分からないし、そもそもこれからどのような症状が発生するのかさえ不透明だが、それでも何かせずにはいられなかった。


 一方、シモーネの状態を見たハノンは、母親をキッとにらみつける。


「すべては……己の力を増すためというわけじゃな」


 ハノンがそう指摘すると、母親のアルラウネはニコッと微笑む。

 ――ただ、その笑顔はとてつもなく邪悪に映った。

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