第170話 蕾の中で……

 オアシスの最奥部に到達した俺たちの前に、地中から大きな蕾が現れる。

 

「な、なんて魔力なの……」

「量も凄まじいですが、これまでに経験のない質ですわね」


 キアラやシャーロットが動揺するのも無理はない。

明らかに、これまで出会ったことのない存在――強大かつ特異な魔力を有する存在が、俺たちの目の前にいるのだ。


 思わず怯み、なかなか一歩を踏みだせない俺たちを見て、


「やれやれ……」


 ハノンが先陣を切った。


「随分と仰々しい登場の仕方をするのぅ。もう少し穏やかに大人しく出てこられんのか」


 腰に手を当て、ハッキリとそう言い切った。

 自分の母親と思われるアルラウネを前にしても、ハノンはハノンのままだった――そのふてぶてしいまでの態度が、俺たちの体をがんじがらめにしていた緊張感という糸を引きちぎる。


 俺たちはハノンに少し遅れる形で、蕾の前に立った。


「遅かったのぅ。あのまま立ち尽くしておるのかと思ったぞ」

「悪かったよ。――それより」

「うむ。目覚めの時が来たようじゃ」


 その言葉の通り、蕾はゆっくりと開いていき――中から人が現れる。

 ……いや、あれは人じゃない。

彼女もまたアルラウネだ。

ハノンと同じで人とまったく変わらない姿をしているからついつい勘違いをしてしまうんだよな。


――で、そのアルラウネだが……容姿をひと言で表すなら「大人になったハノン」だ。

 髪の毛の色が金髪という相違点こそあるが、それを除けばほとんどハノンそのものと言えた。きっと、順調に成長して大人になる頃には、あのような美人に育っていることだろう。


「お待ちしていましたよ」


 蕾の中から現れた――「ママ」と呼ばれているアルラウネは、真っ先にハノンを視界に捉えてニコッと微笑む。


「あなたが来てくれて本当に嬉しいわ」

「ワシは別段これといった感想を抱かんがな」


 はたから見ているとドライに思えるハノンの言葉。

 だが、それこそ彼女が生まれた頃からの付き合いである俺たちには、それが照れ隠しであることは見え見えだった。


 ――思っていたような混乱が起きる気配はなく、俺は密かに魔力を注いでいた竜樹の剣から手を引いた。

 赤い髪のアルラウネが「破滅へと導く」みたいなことを言っていたからどうなることかと思ったけど、なんだか友好的な感じじゃないか。


「ちょっといいかしら」


 完全に警戒を解いた俺の前に、その赤い髪のアルラウネがやってくる。


「どうかしたのか?」

「あなたたち……生きてここから出たいのなら、最後まで油断しないことね」

「えっ?」


 最初はその言葉の意味を分かりかねていた。

 ハノンと母親であるアルラウネの再会――この場面を見ていたら、そのような心配は無用ではないかと思った。

 ……しかし、それは違った。


「っ!?」


 俺は咄嗟に竜樹の剣を構える。

「何か」が地中から俺たちへと迫っていた。

 すぐに他のメンバーも気づいて臨戦態勢に移るが――一歩遅かった。


 地中から現れた「それら」が、次々と俺たちへと襲いかかる。

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