第169話 秘密の場所
最悪の事態も想定していた。
それは、赤い髪のアルラウネたちと敵対すること。
――だが、ここまでの流れではそういった物騒な展開にならなそうだ。
俺たちは彼女のいうママと呼ばれるアルラウネに直接交渉するため、オアシスの奥へと歩を進めていく。
「先へ進めば進むほど、道は険しくなっていきますわね」
「足元には気をつけてよね、シャーロット」
「言われるまでもありませんわ」
競い合うようにして先へと歩いていくシャーロットとキアラ。こんなところでその負けず嫌いぶりを出さないでもらいたいものだ。――まあ、気持ちで負けてビクビクしているよりはよっぽど頼もしいからいいけど。
そんなふたりに引っ張られるような形で、俺たちもオアシスの奥部を目指す。
やがて、植物のあまり生えていない、開けた空間に出た。そこは四方を背の高い木々で囲まれており、まるで隔離した部屋のように感じる。
……なんとなく、分かる。
ここに――例のママと呼ばれたアルラウネがいる。
「ここが目的地ってわけか」
「そうね」
赤い髪のアルラウネは、静かに答えた。
――しかし、
「目的地と言う割には、他に誰もいないみたいですけどぉ……」
シモーネの言う通り、この場には俺たち以外に人はいない。気配も感じないし……どうなっているんだ?
「君の言うママってアルラウネも、ここにいるんだろう?」
「そうよ。――じきに姿を見せるわ」
そう告げた直後、まるで彼女の話を聞いていて、それに反応するがごとく強大な魔力を足元から感じ取った。
「!? な、何なの!?」
「とんでもない魔力ですわ!?」
メンバーの中でも特に魔法へ精通しているキアラとシャーロットが真っ先にその異変に気づいた。
「どうやら、ママが起きたみたいね」
赤い髪のアルラウネがそう言うと、彼女のすぐ近くの地面が急に盛り上がる。それは一ヵ所だけにとどまらず、あちこちに増えていき、やがて巨大な植物の蔓が地面を突き破って現れた。
竜樹の剣にも似たような力があるけど……こうして、自分が見る側に回るとなかなか怖いな。
だが、それらに敵意は感じない。
ただうねうねと揺れながら、俺たちを見回すように動いている。
「な、何なんだ、これは……」
「アイリアちゃん、油断しちゃダメだよ」
突然の事態に困惑しているアイリアと、そんな彼女に声をかけるマルティナ。
マルティナの方に関しては、竜樹の剣で似たような状況を作りだしているため耐性がついているのだろう。
逆に、まだ慣れていないアイリアは完全に腰が引いていた。
「いよいよか……」
一方、ハノンは覚悟を決めたように呟く。
この根は、彼女の母親の物――これまでずっと気にしていたという母が、目前に迫っている証拠だ。
俺も固唾を飲んで登場に備える。
今はまだ何もしてこなさそうだが……その状態がずっと続くという保証はどこにもないからな。
緊張状態が続く中、とうとう地中から姿を現す。
「あれは……」
俺たちの目の前には、地面から出てきた巨大な蕾があった。
その中から、これまでにない魔力量を感じる。
――間違いない。
あの蕾の中に――ハノンの母親がいる!
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