第168話 ママと呼ばれるアルラウネ
俺たちの前に現れた赤い髪のアルラウネ。
髪の毛の色以外はすべてがハノンと瓜二つという出で立ち――みんな、俺からの情報で知っていたとはいえ、こうして実際に目の当たりにすると驚きのあまり動きが完全に止まってしまっていた。
「あれが……もうひとりのハノン?」
確認するようにキアラが呟くと、現れた赤い髪のアルラウネは静かに首を横へ振る。
「それは違うわ」
「!? こ、声まで一緒です!?」
「でも話し方が全然違いますわ!?」
「とても普通ですぅ!?」
「さすがの僕もビックリだよ!?」
「……あなたが普段どんな風に振る舞っているか透けて見えるわね」
「余計なお世話じゃ!」
ま、まあ、みんな普段のハノンの言動に慣れているから、驚くのも無理はないか。俺も最初はめちゃくちゃビックリしたし。
「……まあ、いいわ。それよりも、わざわざこんなところに来るなんて」
半ば呆れ気味に言い放つ赤い髪のアルラウネ。
向こうからすれば、警告に近いことを言っていたにも関わらず、こうしてその場へとやってきたのだから不思議なのかもしれない。
「ここへ来たのは仕事だ。近くの村で、ちょっとしたトラブルがあって」
「トラブル? ……土壌のことね」
どうやら、心当たりはあるらしい。
「分かっているのなら、なんとかしてもらえないか? あの村の人たちはオアシスの水源を頼りに新しく農業をやろうって頑張っているんだ」
「私の一存では決めらないわね。そういうのは全部ママが仕切っているから」
「ママ……」
ハノンの表情が険しくなる。
赤髪のアルラウネの言うママとはつまり――ハノンにとっての母親でもある。
そして、やはり……今回の事件の黒幕みたいだ。
「なぜ、君の母親はこの地に居座るように?」
「さあ……そこまでは知らないけど」
「よそへ移ってくれるってことは――」
「ないわね」
食い気味に否定された。
……彼女の言い分からすると、ここでメッセージを託したところで無駄だろう。こうなったら、俺たちが直接その母親のところへ行って伝えるしかない。
「ここにその母親はいるんだろ?」
「奥にいるわよ」
「だったら――会わせてもらうことはできるか?」
「あなたたちが?」
意外そうな顔をする赤い髪のアルラウネ。
自分たちを狙っている親玉へ会いに行くって言っているんだからな。
――それでも、
「会わせてもらうぞ」
俺よりも先に、ハノンが一歩前に出て告げた。
「あなた……ママに会うつもり? 会ったらどうなるか、分かっているでしょう?」
「もちろんじゃ。――しかし、お主が危惧しているような事態にはならぬ」
「そんなわけないでしょ? あなたはママには逆らえない。たとえどんな手を使おうとも、ね」
赤い髪のアルラウネが語る、ママと呼ばれる者の存在。
果たして、どんな姿をしているのか……興味が出てきたな。
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