第167話 赤い髪のアルラウネ
マルティナとシャーロットの様子がおかしい。
当初、俺はキアラが何らかのアクシデントに見舞われ、ふたりがそれを助けにいったのだと思っていた――が、どうも事情は異なるらしい。
「ベ、ベイル! 助けて!」
敵らしい敵の姿は見えないが、キアラが必死に助けを求めている。
一体何に怯えているのかといえば、
「大丈夫ですよ……キアラちゃん……」
「そうよ……痛いのは最初だけだから……」
頬が紅潮し、目がトロンと垂れているマルティナとシャーロット。しかし、キアラを見つめ続けるその瞳には、真っ赤な焔が宿っているような熱量を感じる。
「ど、どういう状況?」
「さ、さっぱり分かりません……」
「……そういうのもあるのか」
事情をまったく把握できてないアイリアとシモーネ。そして何かの扉を開きかけているハノン。それぞれ反応は異なるが――このままにしていてはいけないというのは本能的に察したようだ。
「やめるんだ、マルティナ!」
「どうしちゃったんですか、シャーロットさん!」
アイリアとシモーネが、ふたりをキアラから引きはがす。
「邪魔をしないでください!」
「私たちはこれからですわ!」
どうしたっていうんだ、一体……ふたりがここまで我を忘れて奇行に走るなんてこれまでなかったぞ。
ただ、間違いなく言えることはひとつある。
その考えが脳裏をよぎった時、まるで見計らったかのようにハノンが口を開く。
「ベイルよ……どうやら、ふたりに起きた異変には――アルラウネの花粉がかかわっているようじゃ」
「アルラウネの花粉?」
「そうじゃ。あれにはいろいろと厄介な成分が含まれておってな。中には人を一時的にではあるが極度の興奮状態にさせるものもある」
「興奮状態って……」
まさに今のマルティナやシャーロットの状態じゃないか。
……でも、
「どうしてその興奮の行き先がキアラに?」
「それは知らん」
バッサリと斬り捨てられた。
まあ、たぶん、たまたま近くにいたからとか、そういう理由なんじゃないかな。分からないけど。
その後、興奮状態にあるふたりにはキアラの状態異常を回復させる魔法がかけられ、元通りとなる。
――が、
「「…………」」
どうやら、暴走していた時の記憶は残っているようで、キアラとの間に気まずい空気が流れる。
これは……ハノンの母親であるアルラウネを見つけるよりも面倒な展開になってきそうだな。
とにかく、気を取り直してさらにオアシスの奥へと進もうとした――その時だった。
「あの状態から一瞬にして元通りなんて……魔法というのは本当に厄介みたいね」
女の子の声がした。
――しかも、この声って、
「!? き、君はあの時の……」
現れたのは髪の色が赤いことを除けばハノンとそっくりの容姿をした女の子だった。
そう。
レドスの町にある宿屋で俺が出会った子だ。
「!? ハノンちゃんがふたり!?」
「まさか、魔法!?」
「ど、ど、なんているんですの!?」
マルティナ、キアラ、シャーロットの間に流れていた微妙な空気は一瞬にして消え去った。そういえば、実際に赤い髪のアルラウネと会うのはこれが初めてか。
「お友だちがいっぱいいて羨ましいわ」
妖艶な笑みを浮かべる赤い髪のアルラウネ。
果たして、彼女は何の目的があって俺たちに接触してきたのか。
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