第166話 新たな罠
オアシスに足を踏み入れると、先ほどまでもの臭いがなくなっていた。
どうやら、あれは縄張りへの侵入を威嚇する意味合いのみのようだ――が、そうなると、ここから先はさらに警戒心を強めていかなくてはならない。
「しかし……これはもう立派に森だな」
思わずそう漏らしてしまうほど、ハノンの母親であるアルラウネが潜んでいるらしいオアシスには、植物が青々と育っていた。
「ツリーハウスのあるダンジョン近くの森より植物が多いんじゃないの?」
「それに……なんだか、涼しくなっていませんか?」
「木々のおかげで日陰が増えたというのが大きいんじゃないかな」
キアラ、マルティナ、アイリアの三人は辺りを見回しながら目についた情報を口にしていく。
……その通りだ。
まず、森としての規模はかなり大きい。
砂漠化するって話は聞くけど、その砂漠が緑化したって話は耳にしない。しかし、ここではその耳にしない話が現実に起こっていた。
これが自然による緑化であるなら手放しに喜べるのだが……どうにもそういうわけじゃないから、俺たちが出張っている――さて、ここから先は何が出るかな?
周囲を警戒しながら歩いているが、特にこれといった変化は起きない。
俺たちはさらに探索の範囲を広げるため、二手に分かれることとした。
まず、俺、ハノン、シモーネ、アイリアの四人。
そして、キアラ、マルティナ、シャーロットの三人。
このチームで挑むことにする。
あまり距離を取らず、近くではあるがそれぞれ別範囲で辺りを調べてみることに――が、俺たちのチームはやはり目ぼしい物は発見できなかった。それどころか、向こうからの接触もないときている。
「一体……なんのつもりなんじゃ?」
ボソッと呟くハノン。
だが、その声色には確かな怒りの感情がにじんでいた。
赤い髪のアルラウネを使いとして俺たちのもとへと寄越し、さらに見せつけるようにして生みだしたオアシス――その狙いはハノンなのだろうが、こうして誘いに乗ってみても何かを仕掛けるという素振りを見せない。
何を仕掛けるのか。
何を企んでいるのか。
それがまったくの不透明で、狙いが読み取れない。
底知れぬ不気味さがあった。
「ハノン、焦る気持ちは分かるが……ここは冷静に対処しないといけないぞ」
「分かっておる」
口では冷静な態度を装っているが、その小さな体でするひとつひとつの動きはどこか忙しなく、焦っているように映る。
すると、その時、
「きゃーっ!?」
キアラの悲鳴が森中に響き渡った。
「!? キアラ!?」
俺たちは急いでキアラ、マルティナ、シャーロットの三人のもとへ急ぐ。
到着してまず目に入ったのは、地面に倒れているキアラ。
そのキアラに寄り添うマルティナとシャーロット。
ここまでなら、キアラに何か起こったのかと心配になるが――
「キアラちゃん……」
「キアラさん……あなたが悪いんですのよ?」
――逆だった。
何やら熱っぽい眼差しでキアラを見つめるマルティナとシャーロット。
……まずい。
たぶん、このままでは――いろんな意味でキアラが危ない!?
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