第165話 謎多き新たなオアシス
タバーレス家からの依頼を達成させるためには、どうあってもハノンの母親であるアルラウネが待ち構えているらしいオアシスへ足を運ぶ必要があった。
今回は帰りのことも考慮して、馬車は村へ置いて行くことにする。話によると、それほど離れてはいない場所にあるらしいし、そっちの方がいいだろう。
近づくことさえためらわれるというその場所だが――情報通り、村を出るとすぐに見つかった。
「あれが……例のオアシスか」
「な、何よ、あれ……」
驚愕のあまり声が震えているキアラ。
他のメンバーも口には出さないが、その表情から同じような感想を持ったに違いない。というか、俺もまったく同じことを思ったし。
目的地と思われるオアシスは数キロ先に存在していた。
そんなに離れて位置にありながら、なぜ言い切れるのかというと――オアシス周辺だけ青々とした茂る草木があるからだ。
それだけなら普通のオアシスという認識で終わるかもしれない。
――だが、問題はその規模だ。
「あれがオアシス? あそこまでいくともはや森ですわ!」
シャーロットの訴える通り、そこをオアシスと呼ぶには少々無理がある。それほどまでに森が砂漠を侵食していたのだ。逆砂漠化現象――いや、それだとただの緑化ってことになるか。
字面だけで捉えるなら、むしろ望ましい環境と言える……はずなのだが……なぜだろう……物凄く嫌な予感しかしない。
「あそこにハノンちゃんのお母さんが……」
マルティナは確認するように言って、ゴクリと唾を飲む。
ひどく緊張した面持ちだが……無理もないか。
ハノンの母親ってことは、相当なレベルのアルラウネってことになるし、その母親が娘のひとりを通じて俺たちにコンタクトを取ってきた――そう考えると、今もどこかで俺たちを狙っているのではないかという警戒心が湧き上がってくる。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
俺たちは覚悟を決めてオアシスへと進んだ。
しばらく歩いていると、
「ん?」
まず異変に気づいたのはアイリアだった。
「な、なんだかちょっと臭わないかい?」
二の腕で鼻を覆いながら、そんなことを尋ねてくるアイリア。それまでは気づかなかったが、その指摘を受けて注意深く嗅いでみると――
「確かに、ちょっと臭うな」
「なんの臭いでしょうか……」
水竜として世界中を飛び回っていたシモーネでさえ嗅いだことがないという不思議な香り。特別臭いってわけじゃないんだけど……言葉では言い表せない不快感がある。
「もしかして、この臭いは……人を近づけさせないためのものなんじゃないかしら」
キアラがそう仮説を立てる。
そういえば、このオアシスへ近づいて行った者たちが感じたという異様な気配はこれが原因なのではないか――そう分析したらしい。
――可能性は高いとみてよさそうだ。
彼らはこの臭いを嗅いで異様さに気づき、これ以上近づこうとしなかったのだ。
普通の人なら、ここで引き返すのだろうけど……俺たちの場合はそういうわけにもいかない。きっと、イゾロフさんもこうした事態は織り込み済みだったに違いない。だから俺たちへ依頼をしてきたのだ。
俺たちはオアシスへの行く手を阻む謎の臭いに苦しめられながらも、着実に距離を縮めていく。
こうなってくると……きっと向こうは次の手を打ってくるだろう。
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