第164話 問題発生
レーム砂漠のオアシスで野菜が育たない理由――それは単純に土壌だけの問題ではなかった。
ハノンの母親と思われるアルラウネの強大な魔力。
それが、この近辺を野菜の育たない砂漠に変えてしまった原因である可能性が極めて高い。
「強大なアルラウネがこの近くに……あっ!」
俺たちの話を聞いていたエドワーズ村長は、何かを思い出したように声を出した。
「どうかしましたか?」
「い、いえ……実は、ここ最近になって、新しいオアシスが発見されたんです」
「新しいオアシス?」
それは初耳だった。
――というより、俺たちに説明できなかった理由があるらしい。
「そのオアシスに人は住んでいるんですか?」
「それは……」
マルティナの言葉に、エドワーズ村長は口をつぐんだ。何か言いづらいことがあるんだろう。沈黙という行為が雄弁に物語っていた。
「もしかして、調査に送り込んだ人が何者かに攻撃された――とか?」
「! こ、攻撃をされたわけではなく……近づくことさえ叶わなかったのです」
「えっ?」
「オアシスを調べるため、村の若い男を数人そこへ送り込んだのですが……異様な気配を前に動けなくなり、調査を断念したのです」
それはまた妙な現象だな。
足を踏み入れた結果、誰かに襲われたっていうなら分かるけど、近づくことさえできなかったなんて……襲われるよりずっと厄介だな。
「じゃが、問題を根本から解決するならそこへ行くしかあるまい」
「……そうだな」
さっきの話を聞いて確信した。
ハノンの母親はそのオアシスにいるはずだ。
「行くしかないですね!」
「まあ、タバーレス様にもお願いされていますし、このまま『何もできませんでした』と引き下がるわけにはいきませんわ」
「シャーロットの言う通りよ。オアシスへ行きましょう」
「わざわざベイルのもとへ使いを送って宣戦布告をしてきたんだ。僕たちの実力を見せつけてやろう」
「私も乾燥しないようにお水をたくさんもって挑みます!」
それぞれが決意を口にし、オアシスへ向けての準備を進めることにした。
村長のご厚意により、必要なアイテムを無償で提供してもらえることになった。
――が、
「申し訳ありません。うちにあるのはこれくらいで……」
小さな村ということで、もともとあるアイテムや武器の数は少なかった。
とりあえず、戦闘になればシモーネの体が乾燥してしまう可能性があるため、ある限りの水筒を持って行くことにした。
アイテムの整理をマルティナたちに任せ、俺とキアラは以前問題のオアシスへ近づいたことのある冒険者へ話を聞き、もう少し情報を聞きだすことにした。
――だが、全員が口を揃えて「よく分からない」という返事だった。
「す、すいません、参考にならなくて……」
申し訳なさそうに謝る村の若者たち。
だが、逆にその「よく分からない」というのが、俺たちに強い警戒心を与えてくれた。
「さて……マルティナたちの準備も整ったみたいだし、行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
準備は万端。
レーム砂漠に畑を作るため、そしてハノンと母親の関係について知るため、俺たちは新しく出現したオアシスへ向かって出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます