第162話 オアシスの村
レーム砂漠にある小さな村――ダッテン。
ここが、今回タバーレス家へ依頼をした村なのか。
情報通り、町の中心には大きな湖があった。あれがこの村の人たちにとって生命線なのだろう。
「おお! お待ちしておりましたぞ! あなたたちが領主様の言っていた強力な助っ人ですな!」
到着するやいなや、ひとりの中年男性が大慌てで近づいてくる。その様子から、恐らくこの人が依頼主だろう。
「申し遅れました。わたくし、この村で村長をしております、エドワーズという者です」
「はじめまして。タバーレス家当主のイゾロフ様からの依頼を受けて参りました」
「いやはや、遠路遥々お疲れ様でございます。……しかし、領主様から特徴をお聞きしてはいたのですが……本当にお若いですな」
疑うのも無理はない。
俺たちのことを知らなければ、普通にただの少年少女って感じだしな。
それでも、タバーレス家から信頼されて、ここへ送り込まれたのだ。そのことはエドワーズ村長も承知しているだろう。
「ご期待に応えられるよう頑張ります。早速なのですが、湖の方へ案内していただけますか?」
「もちろんです! ささ、こちらへどうぞ!」
エドワーズ村長は張り切って俺たちをこの村の水源である湖へと連れて行ってくれた。
イゾロフさんが言うには、この村でなんとか農業を営もうと、エドワーズさんは試行錯誤を繰り返していたらしい。
しかし、明確な成果を得ることができず、最近は行き詰まりを感じていたらしいが……それを感じさせない明るい振る舞い。それだけ、俺たちへ期待をしているということだろうな。
「こちらでございます」
案内された湖は――近くで見るとその大きさと美しさが一層ハッキリと分かる。ギラギラと輝く太陽の光を反射して輝く湖面は、まるで宝石を散りばめたかのようにきらめいていた。
シモーネが期待の眼差しを向けているが、残念なことにここは生活用水の確保を目的としているため、泳ぐことはできないという。
「でも、シモーネみたいに可愛い竜人族の子が泳いだ後の水って、なんだか神聖な感じがしてよさそうなんだけどねぇ」
「ご利益に期待がもてますわよね」
「根拠はないですけど、なんだか健康になれそうですね!」
「きっといい出汁が取れるんだろうなぁ」
「あと、シモーネは胸が大きいからのぅ……きっと諸々のサイズアップも間違いなしじゃ」
「最後の要素は関係ないと思います!?」
好き勝手言っているキアラ、シャーロット、マルティナ、アイリア、ハノンの五人に対して、シモーネがひとりでツッコミを担うという珍しい展開だ。
――という、女子のやり取りを眺めていると、俺は湖のすぐ近くに、畑とするためのスペースがあけられていることに気がついた。
「こちらに畑をつくるんですね」
「えぇ、そのつもりです」
「じゃあ……ちょっと試してみますね」
俺はすぐさま準備に取りかかる。
そんな様子を凝視するエドワーズ村長は、さっきのシモーネみたく期待に瞳を輝かせていた。
その期待に、なんとか応えないとな。
俺は竜樹の剣を地面へと突き刺し、土壌の改善を開始――しようとしたのだが、
「むっ!?」
猛烈な違和感を覚え、思わず一度剣を引き抜いた。
「? どうかされましたかな?」
「い、いえ、もう一度……」
嫌な予感がしつつも、俺はエドワーズ村長やダッテンに暮らす人々のため、再び竜樹の剣を地面へと突き刺した。
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