第161話 ひと休み
乾燥により弱ってしまった水竜シモーネ。
さらに、他のメンバーもシモーネほどではないにしろ、この暑さで思いのほか体力を消耗しているようだった。
そこで、俺は竜樹の剣の力に頼ることとした。
この状況……【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中にも、似たようなイベントがあったことを思い出したのだ。
あれは確か……砂漠が舞台というわけではなく、干ばつの続く土地に水を与えるためのイベントだったな。
本来はさまざまなクエストをクリアした後、水が湧き出るようになるのだが――裏技的な存在として、この竜樹の剣が使用されていた。
それは、竜樹の剣だけが持つ神種というアイテムを駆使するため。
これまで、万能植物のウィドリーや絶大なヒール効果を持つボッシュなど、それぞれ役割特化した神種を使い、困難な状況を打破してきた。
今回は新しい神種――《潤いの蕾》――アルトゥムの出番だ。
俺は先ほど見つけたちょうどいいサイズのスペースの真ん中に立ち、地面へ向かって竜樹の剣を突き刺した。
次の瞬間、剣先からアルトゥムの種が地面の中へと入っていき、それはあっという間に育っていく。成長しきるまでの時間は五分とかからない。この成長スピードも、神種の特徴のひとつと言えた。
「相変わらず手間いらずですわねぇ」
「ホントねぇ」
感心したように呟くシャーロットとキアラ。
――けど、こいつの真骨頂はまだまだこれから。
しばらくすると、成長したアルトゥムの枝に大きな蕾ができ始めた。遠くから見るとまるで水風船のようだ。
「あれは何ですか?」
「木の実というわけではなさそうだね」
不思議そうに見上げているマルティナとアイリア。
その蕾はどんどん膨らんでいき、やがて破裂――すると、中から大量の水が飛びだしてきた。それもひとつやふたつではない。大量の蕾が割れて、中から次々と水が出て、それがスペースにたまっていく。
周りとは七、八十センチほどの段差があるそのスペースへ水が溜まっていくと、即席の水場が完成する。この場合、プールって言った方がしっくり合いそうだ。
「おぉ! 見よ、シモーネよ! 水場ができたぞ!」
「お、お水ぅ……」
顔色が悪くなっているシモーネだが、ひとたびその水場にダイブして時間が経てば――
「復活です!」
肌ツヤもよくなって復調したようだ。
それから、俺たちもその水場へと入る。着替えは持ってきているので、みんな服を着たまま勢いよく飛び込んだ。それくらい、みんな暑さでまいっていたのだ。
少しの休憩時間を挟んだ後、着替えをしつつ、ずぶ濡れとなった服は馬車の上で干していく。
ちなみに、シモーネに体調面のことを尋ねてみたが、
「安心してください! もうこんなことがないようにしっかりと水分を蓄えておきましたから!」
どうやら、水竜にはそうした特性があるらしい。
なんにせよ、この先も一緒に行動できるようでよかった。彼女の力は俺たちにとって切り札となり得るからな。
水分補給と気分転換を終えた俺たちは、再度目的地へ向かって出発。
それからおよそ二時間後――とうとう目的の町が見えてきた。
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