第158話 アルラウネの事情
「破滅だって……?」
ハノンによく似た赤髪の少女は、冷めた視線を俺へ向けながらそう告げた。
「一体何を企んでいるんだ……?」
「企みとは人聞きが悪いわね。こっちは純粋な善意で忠告をしてあげているのに」
「善意だと!?」
とてもそんな風には思えなかったので、思わず興奮して怒鳴ってしまう――が、ここは冷静になって対処しなければいけない。彼女の要求は、俺にパーティーから抜けるようハノンを説得すること……そこから先のことはまだ聞けていないし、そもそもなぜそのようなマネをしなくてはいけないのか、何もかもが説明不足だった。
「なぜ、君たちはそこまでハノンにこだわる? 聞くところによると、君とハノンは姉妹のような存在みたいだが……それぞれが独立して行動できているように映る。今さら彼女を連れ戻して、どうしようっていうんだ?」
「そうね。まあ、訳を話そうとしたら結構時間がかかりそうだから……経緯とかすっ飛ばして単刀直入に言うわね」
むしろそっちの方がありがたい。
分かりやすいのは結構なことだ。
諸々の事情は、あとからゆっくり理解すればいいからな。
「その理由だけど――ママが求めているからよ」
「ママ?」
あまりにも予想外なワードが飛びだした。
ママって……つまり、母親のことだよな。
ハノンの母親――つまり、母体となっているアルラウネからの要求というわけか。
「なぜ、今頃ハノンを呼ぶんだ?」
「その時が来たというだけよ。あの子はもう……ママのもとへ帰らないと」
それは、言ってみればアルラウネの習性だろうか。いずれにせよ、このまま本人の意思なく勝手に連れ帰るというのは避けたい。
だが、向こうは問答無用って感じだ。
……それなら、こちらにも考えがある。
俺は近くにあった竜樹の剣を手にすると、それを構えた。
「バカなマネを……ていうか、何なの、その剣。ただのおもちゃじゃない」
しかし、赤髪のアルラウネはまったく動じない。剣を持った人間程度なら容易く組み伏せられると思っているらしい。しかも、持っているのはただの木剣にしか見えない竜樹の剣だからな。
実際、俺がこの剣を持たない一般人だったら、きっと目の前にいる少女には勝てないだろう。――だが、こいつはただの剣じゃないんだ。
特に、植物型モンスターのアルラウネには、それがより強く感じられるんじゃないか?
徐々に魔力を込めていくと、それに呼応するかのごとく赤髪のアルラウネの表情が変化していく。
「な、何よ、その剣は……」
先ほどまでの余裕あふれる顔つきから一変し、頬が引きつって明らかに焦っていることが分かる。
「知らないのか? 竜樹の剣ってヤツだ」
「竜樹の剣? まさか……またこの地上に!?」
また?
もしかして……彼女は竜樹の剣を知っているのか?
口ぶりからするに、恐らくは俺よりも前にこの剣を持っていた人物を指しているのだろうが――そのことについて詳しく聞こうとすると、
「くっ! 今日のところはこれで失礼するわ!」
赤髪のアルラウネはそう言うと、窓から外へと逃げだした。
「な、何だったんだ……?」
最後の方はあまりにも突然だったので、俺も状況の脳内処理が追いつかない。竜樹の剣の効果が思ったより強かったのか?
いずれにせよ、この件はみんなに話しておくべきだろうな。
特に、ハノンには。
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