第157話 真夜中の来訪者
「ハ、ハノン!?」
俺に馬乗りとなっているのは間違いなくハノン――のはずだが、どこかおかしい。
違和感がある。
見た目は完全にハノンなんだけど……中身がまるで別人という感覚なのだ。
「君は……一体誰なんだ?」
恐る恐る、俺は尋ねてみた。
すると、
「ふふふ、やっぱり姿形が似ているだけでは騙せないようね」
――これが決定打となった。
普段のハノンはもっと年上口調というか、いわゆる「のじゃ」口調。今のような話し方は絶対にしない。
だとすると、今俺に跨っているこの子は……
「くっ!」
身の危険を感じた俺は彼女を振り払うようにして飛び起き、枕元にあった照明用の発光石に魔力を注いだ。途端に、室内が明るくなって偽ハノンの全身がハッキリと視認できるようになった。
まず、彼女は服を着ていた――いや、これはどうでもいい。
それ以外にも、異なる点はある。
真っ先に飛び込んできたのは髪の毛の色だ。
緑色をしているハノンに対し、俺の部屋に現れた少女は燃えるような赤。よく見ると髪の長さも微妙に短い。
……待てよ。
あの赤色はどこかで見たことがあるような――
「あっ!」
その時、俺は生けてあった赤い花が消えていることに気づく。
あの赤い花が、この子だったんだ。
ということは……彼女もまた、ハノンと同じでアルラウネなのか?
「どうやら、私の正体にも気づいたようね」
赤い髪のアルラウネは、花瓶を見た瞬間に俺が表情を変えたことで自分の正体に気づいたと勘づいたようだ。
「……ハノンとは別種とアルラウネというわけか」
「その通りよ」
「なぜ俺の部屋に?」
俺は竜樹の剣に手をかけながら話を続ける。
正直、こちらは圧倒的に分が悪い。
竜樹の剣は戦闘向きじゃない上に植物を操る力を持っている。――だが、それはアルラウネも同じだ。つまり、俺から見た彼女は戦闘相性最悪のもっとも避けたい存在と言って過言ではない。
しかし、だからと言って大人しくやられるわけにもいかなかった。
もし戦闘となったら……背後にある窓からの脱出も視野に入れないと。
緊張感が増す中、そのアルラウネはゆっくりと語り始める。
「あなたと戦おうという気はないわ。――大人しく返してくれたらいいのよ」
「返す? 何を?」
「分かっているくせに」
妖しく微笑む赤い髪のアルラウネ。
外見年齢はハノンと同じで十歳前後の少女だが……その妖艶さはとても子どもとは思えなかった。
「君の狙いはうちのパーティーにいるハノン――緑色の髪をした同種か?」
「その通りよ。あなたのもとへ来たのは、私が説明するより信頼しているあなたが諭してくれた方がスムーズに事が運ぶと思って、ひとりになるのをずっと待っていたのよ」
「何?」
無理やり連れて帰ろうということはせず、俺にハノンを説得してほしいと赤い髪のアルラウネは依頼してきた。さらに、
「これはあなたたちのためでもあるのよ?」
「ど、どういうことだ!」
ハノンと別れることが俺たちのため?
それは聞き捨てならない。
理由を尋ねると、赤い髪のアルラウネはひとつため息を挟んでから語り始める。
「このままあの子と行動をともにし続ければ――近い将来、あなたたちには破滅が訪れるわ」
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