第155話 ハノンの異変

 レーム砂漠を目指す俺たちは、その中継地点として選んだレドンへ向けてダンジョンを出発。

その道中、俺たちはいつもとは違った変化を見せる風景に関心を抱いた。


「この辺りまで来ると、草木も減ってちょっと寂しい感じがしますわね」

「それに気温も上がってきているみたいだわ」


 シャーロットとキアラは冷静に周りの環境変化を分析している。

 俺たちの住んでいるダンジョン近辺は鬱蒼とした森になっているから余計にその殺風景さが目に付くんだよなぁ。


「砂漠かぁ……僕は一度も行ったことないんだけど、みんなはあるの?」

「私もないですね」

「私はドラゴンになって空を飛んでいる時にチラッとだけ……乾いているところは苦手なので避けていましたねぇ」

「なるほど。水竜だから乾燥は大敵ってことか」

「えっ? じゃあ、これから行くところは大丈夫ですか?」

「それは問題ないです。キアラさんとシャーロットさんから水の魔鉱石で作ったというペンダントをいただいたので、常に水分補給が可能なんです」


 アイリア、マルティナ、シモーネの三人は目的地の砂漠をテーマに女子トークで盛り上がっている。


 ――ただひとり、アルラウネのハノンだけは、他のメンバーとちょっと違った面持ちで景色を眺めていた。


「どうかしたのか、ハノン」

「……いや、別にこれといって何かがあるわけではない」


 なんて言っているけど……顔つきは真逆なんだよなぁ。俺の目には、あることが気になってしょうがないというように映った。


「本当か? 気になることがあるなら何でも言ってくれよ」

「……妙な気配がするんじゃ」

「妙な気配?」


 いつものハノンらしくない、少し弱ったような声――どうやら、不安や心配というよりも困惑という感情が湧き上がってきているようだ。


「具体的に表現はできんのじゃが……」

「いや、大丈夫だよ。ハノンがそういう心境でいるってことが分かっただけでも、これからの行動の参考になる」

「すまんのぅ」

「俺たちは仲間なんだから、そんなこと気にしなくてもいいよ」


 申し訳なさそうに謝るハノンへ、俺はそうフォローを入れる。

 ……しかし、あのハノンが素直に謝るなんて……よっぽどおかしな状態なんだろうな。


 それは恐らく、アルラウネとしての本能だろうか。

 アルラウネとは植物系のモンスターだ。

 これは推測だけど、水竜であるシモーネが乾燥を苦手としているように、植物であるハノンもまた乾燥を苦手にしているんじゃないかな。これまで、そうした場所に出向いたことがない分、未知の感覚に戸惑っているのかもしれない。

 

 ここから先は、さらに環境が過酷になってくる。

 ハノンの体調には十分気をつけていかないと。



 それから馬車を走らせ続けて数時間。

 途中で昼食のために見晴らしの良い丘の上でマルティナとクラウディアさんの作ったお弁当をいただく。


「そういえば、今回もクラウディアさんは留守番だったけど……よかったのかな」

「本人が残ると言っているのですから、問題はないはずですわ」


 それはそうなんだろうけど……そう言っているシャーロットって、結構いいところのお嬢様なのに。まあ、それだけ俺たちの腕を信頼してくれているともとれるけど。


 昼休憩を終えると、レドンの町を目指して再出発。

 このまま、何事も起きずに到着できればいいんだけど。

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