第153話 挑戦

 タバーレス家当主のイゾロフさんの依頼内容――それは、ある村の復活を手助けすることだった。


 ――が、これだけでは対応策を練ることができないため、もう少し詳しく情報を聞きだす。


「ある村との話でしたが……そこはどこなんですか?」

「うむ。……君たちは、この大陸の東の果てに何があるか知っているか?」

「東の果て?」


 そう尋ねられた時、脳裏に浮かんだのは【ファンタジー・ファーム・ストーリー】のマップだった。もう何年も見続てきたマップだけに、細部までしっかり頭に入っている。それによると――


「東の果ては……砂漠ですね?」


 俺がそう告げると、イゾロフさんはコクッと頷く。

 ……って、ちょっと待てよ。

 もしかして、俺たちが手助けするっていうのは、


「その砂漠にある村で――農業をしようと?」

「察しがいいな」


 イゾロフさんは驚いたように言うが、話の流れと俺の能力を照らし合わせたら、そういう結論に至るのは必然だ。……しかし、砂漠の村で農業というのは、なかなか難しいのではないだろうか。


「竜樹の剣があれば土壌を改良して野菜を育てるのに適した環境を生みだすことは可能です。――けど、それを継続していくには十分な水源がないと」

「その点は問題ない。その村は砂漠にあるオアシスにつくられたもので、水源は十分に確保できている。あとは君の言ったように、野菜に適した土壌があれば完璧だ」


 なるほど。

 下準備は万全ということか。


「もちろん、うまくいった際には相応の報酬を払うつもりでいる」


 イゾロフさんはそう言うと、一枚の紙を取りだす。契約書の類なんだろうけど、そこに書かれていた報酬の額を目の当たりにし、俺とマルティナは飛びださんばかりに目を見開いて驚いた。

 こんなにたくさんゼロが並んだ数字……見たことないぞ。


「こ、ここ、こんなに!?」

「商会のグレゴリーやギルドマスターのフェリックスにも、今回の難題をクリアすることは難しいだろう。――だが、君の持つ竜樹の剣の力ならば、そのような状況を打破できると私は信じている。それに、エーヴァ村やネイサン村の窮地を救ったという十分すぎる実績もあるしな」


 巨大昆虫型モンスターのせいで樹木の伐採が困難になったエーヴァ村。

 謎の武装集団によって広大な畑を焼け野原にされかけたネイサン村。


 ……そんな事件もあったなぁと振り返る。

 タイラーさんとかセルヒオとか、元気にしているかな。


「やってくれるか、ベイル・オルランド」

「――はい」


 俺はイゾロフさんからの依頼を受けることにした。

 ……報酬がいいってこともあるけど、その砂漠もプレイヤー時代に何度か攻略のために訪れたことがあった。自分がハマったゲームのステージを実際に見て回れる――これはゲーマー冥利に尽きると言っていい。もちろん、そのオアシスの町で起きている農場開拓の件についても、全力で当たるつもりだ。


「では、早速このことを向こうの村長に伝えておこう。出発は一週間後でどうかな?」

「問題ありません」


 こうして、俺たちの新しい仕事が決まった。

 次は――大陸東端にある砂漠が目的地だ。

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