第152話 タバーレス家の当主
久しぶりに訪れるタバーレス家。
「マルティナお嬢様!」
「おかえりなさい、マルティナお嬢様!」
到着早々、使用人や庭師や料理人――屋敷にいる人々は、マルティナを見かけるために話しかけてきた。それに対し、マルティナ自身は笑顔で挨拶と軽い世間話をしている。まあ、言ってみれば、ここはマルティナの実家みたいなものだしな。ここで働いている人たちは、家族も同然なのだ。
しばらくは久しぶりの再会を楽しんでもらうとしよう。
積み荷の運びだしは、俺たちだけでも十分だ――あの頃より、人数も増えたわだしね。
「凄い人気じゃないか」
「えっ? なんであんなに人気なんですの?」
タバーレス家との一件を知らない、新たに加入したふたりことアイリアとシャーロットは、不思議そうにその光景を眺めていた。
事情を説明しておいた方がよさそうだと思ったのだが、ふたりに声をかけるよりも先に俺の方へ声をかけてきた人物がいた。
「やあ、待っていたよ」
マルティナの父親で、タバーレス家専属シェフのヒューゴさんだった。
「ヒューゴさん、お久しぶりです」
「うむ。元気そうで何よりだ」
俺とヒューゴさんは固い握手を交わす。
それを見て、マルティナもこちらへ駆け寄ってきた。
「お父さん!」
「マルティナ! おまえも元気そうだな!」
「はい! みんなと一緒に楽しく暮らしています!」
父親に包み隠さず近況報告を行うマルティナ。ヒューゴさんは目を細めてその話に聞き入っている――が、このままだと話が進みそうにないので、そろそろ本題に移らせてもらうとしよう。
「ヒューゴさん、お話というのは……」
「おっと! すまない、ついうっかり」
「いえいえ」
俺としても、親子水入らずの時間に割って入るのは気が進まないけど、たぶん、タバーレス家当主も絡んでくるだろうからな。もしかしたら、すでに待機しているのかもしれない。
「こちらへ来てもらえるか。できれば、マルティナも」
「分かりました」
「はい!」
「あっ、積み荷のことはこっちでやっておくから」
「お任せください!」
タバーレス家当主との話は、俺とマルティナで対応することとなり、野菜の積み下ろしについてはキアラたちに一任した。
屋敷の応接室へ通された俺とマルティナ。
そこで待っていたのは初老の男性だった。
彼がタバーレス家の当主――イゾロフ・タバーレスだ。
「初めまして、だね。本当はもっと早く会って話をしたかったが……フォレスター王国との交渉もあって、なかなか時間が作れなくてね」
「いえ、とんでもないです」
クレンツ王国とフォレスター王国。
現在、両国の間では同盟を結ぶ動きが強まっている。
ただ、かつては敵国同士だったという歴史的な事情から、これに反対する勢力も少なからず存在しており、イゾロフさんはその説得に奔走していたという。
以前から話をしたがっているというのはグレゴリーさんから聞いていたけど、今回ようやくその機会が訪れたのだ。
「霧の魔女絡みの案件では、随分と世話になったな」
「そんな……捕まえられなくて残念です」
「ははは、魔法兵団が総力を挙げても捕えることができていないのだ。それは難しいだろうな」
……まあ、確かにそうだな。
でも、今の俺たちはあの頃よりも強化されているし、イケそうな気はする。
とはいえ、今の俺たちはあくまでも農場関係者。
そういうのはハリケーン・ガーリックの力によって強化された魔法兵団にお任せするとしよう。
「君たちにやってもらいたいのは……ある村の復活を手助けしてもらうことだ」
「「ある村の復活?」」
俺とマルティナは顔を見合わせた後、首を傾げる。
一体、それってどういう意味なんだ?
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