第151話 手紙

 嵐の谷から戻ってきて数週間。

 俺たちはいつもの日常生活を満喫していた。

 

 特に、新しくメンバーとして加わったアイリアは、見ることやることすべてが新鮮なようで、毎日驚きの連続だったみたいだ。


「いやぁ……みんなと一緒に暮らすって、こういう感じなんだね」


 地底湖で水浴びするドラゴン形態のシモーネを眺めながら、アイリアはボソッとそう呟いた。最近はマルティナやキアラと一緒にダンジョン探索をすることもあるが、今日は畑での作業を手伝ってもらっている。


「畑は充実しているけど、家畜の方はまだ小規模なんだね」

「そうなんだよ。こっちは結構安定してきているから、新しく育てたいところではあるんだけど」


 アイリアの指摘した、家畜の数。

 現在はシルバークックをメインとしているが……これに匹敵するレアな動物をゲットできないものか。原作ゲームである【ファンタジー・ファーム・ストーリー】なら、マップ移動で簡単かつ素早く移動できるが、リアルではそうもいかない。

 ましてや、レア度が高まるほど、嵐の谷のように危険な地域が増えてくる。

 ハリケーン・ガーリック同様、七大魔法属性に効果抜群の激レア野菜の種も手に入れたいところだし、まだまだやるべきことはたくさんあるな。


「さて、こんなところかな」


 本日の収穫作業はとりあえず終了。

 いつもなら、この籠を持ってライマル商会へと行くのだが……今回は少しばかり事情が異なる。 

 というのも、実は数日前にある人物から商会を通して手紙をもらっていたのだ。

 その人物とは――マルティナの父親であるヒューゴさんだった。

 ヒューゴさんといえば、クレンツ王国内でも有力者として知られるタバーレス家の専属シェフであり、マルティナに料理の基礎を叩き込んだ師匠でもある。

以前、舞踏会に使う野菜を届けに行ったのをきっかけに、紹介を通じて定期的に野菜を届けていたのだが、今回はぜひ俺たちに直接足を運んでもらいたいとのことだった。


 理由はふたつあるという。

 ひとつは、タバーレス家当主が一度顔を合わせて話してみたいと希望したから。

 前回訪問した際は、食材管理を一任されているヒューゴさんと顔を合わせただけだったからな。……まあ、あの時はマルティナとの仲直りをサポートするって目的もあったし、当主は舞踏会の準備やらで忙しかったから仕方がない。

 おまけに、舞踏会以降は隣国であるフォレスター王国との同盟に関して、何度も城と屋敷を往復しているとグレゴリーさんから聞いている。俺たちよりもずっとハードなスケジュールをこなしているようだった。


 ただ、最近はひと段落ついたらしく、二週間ほどのバカンスを終えて先日こちらへ戻ってきたらしい。

 で、公務にも余裕ができてきたということで、舞踏会の際に発生した緊急事態を回避するのにひと役買った俺たちへ、直接が礼がいいたいとのことだ。

 なんというか、貴族というには随分と律儀というか、きちんとした人だな、と思う。これがうちの父親だったら、たぶん「平民はそれくらいやって当然」くらいのスタンスで特に何もアクションは起こさないだろうな。


「お父さんが直接話をしたいって……何かあったんでしょうか」

「まあ、行ってみれば分かるさ」


 娘のマルティナはさすがに心配しているようだ。

 ヒューゴさんからの手紙って初めてだし、その気持ちはよく分かる。

 

 とにかく、タバーレス家で起きている事態を把握するため、俺たちは馬車の荷台に野菜を詰めてから、ダンジョンを発った。

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