第150話 実食
ハリケーン・ガーリックは順調に育っていった。
あれだけ過酷な環境で育てられていた野菜だから、ダンジョン農場で成長するのか――竜樹の剣の力をもってしても難しいかもしれないという心配があったのだが、それは杞憂に終わったようだ。
俺たちは収穫した大量のハリケーン・ガーリックを持って再び魔法兵団の詰め所を訪れる。
到着すると、以前食堂を案内してくれた兵士の方々が出迎えてくれた。
「話はディアーヌ団長から聞いているよ。――それにしても、本当にこれほどたくさんのハリケーン・ガーリックを用意できるなんて……実物を目の前にしてもちょっと信じられないな」
「まあ、その分、苦労はしましたよ」
「大変だったらしいな。――本当にありがとう。君たちには心から感謝している」
これまでの経緯の説明と、ちょっとした世間話を挟んでから、俺たちは食堂へハリケーン・ガーリックを運んでいく。
すると、
「お待ちしておりましたぞ」
料理長のフランクさんが俺たちを待ち構えていた。
この前来た時は強引な料理で兵士たちの気力を削いでいたが、マルティナとの料理対決を経て改心。今では兵士たちのために料理を勉強し直しているらしい。
フランクさんは籠いっぱいに詰められたハリケーン・ガーリックを目の当たりにして思わずのけぞる。
「こ、これが伝説のハリケーン・ガーリック……実物を見たのは初めてですよ!」
「やっぱ、それくらい凄い食材なんだな」
「魔法属性を補助する食材は数ありますが、ハリケーン・ガーリックはその最上位種になりますからね」
うちでも日常的に栽培しているフレイム・トマトやサンダー・パプリカも補助食材ではあるが、効果としてはハリケーン・ガーリックと比べ物にならないらしい。そりゃあどこも欲しがるわけだ。
ハリケーン・ガーリックに匹敵する効果を持った食材は属性ごとにあるらしいので、いつかコンプリートしたいな。
食材を運び終えると、ここからはマルティナの独壇場だ。合同鍛錬の真っ最中である魔法兵団新兵たちのために、自慢の腕を振るう。
「お任せください!」
本人もヤル気満々みたいだな。
頼もしい限りだよ。
料理に関しては、素人ばかりなので、俺たちは俺たちで食器を出したり、飲み物の用意だったり、できる限りのことでマルティナをサポートする。技術的なことは、フランクさんが指示を仰ぎながら進めていた。
――一時間後。
出来上がった料理をテーブルに並び終えた直後、鍛錬を終えて疲れ切った新兵たちが食堂へと入ってきた。
「むっ?」
「おっ?」
「えっ?」
途端に、新兵たちの顔つきが変わる。
疲れ切って、食べる意欲が減退している中、その食欲を刺激する香りが食堂内に漂っている。
やがて、彼らの視線がテーブルの上の料理に向けられると、
「おおっ!」
「これが噂のハリケーン・ガーリックを使った料理か!」
「なんて豪勢なんだ!」
「急に腹が減ってきたぞ!」
先ほどまでの疲れ切った表情は、まるで花が咲いたように明るく変化した。
「彼らのこんな表情を見るのは初めてですよ……」
フランクさんにも、思うところがあったらしく、目頭を押さえて喜んでいる。
こうして、ハリケーン・ガーリックの収穫と調理は大成功に終わったのだった。
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