第149話 帰還

 俺たちの旅はまだ終わらない。

 まずは王都へと向かい、魔法兵団長であるディアーヌさんへハリケーン・ガーリックの調達に成功したことを報告する。


「お見事です。さすがはグレゴリー・ライマルが信頼する農夫ですね」


 ディアーヌさんはご満悦だった。

 あとは、こいつをうちの畑で量産し、騎士団食堂で新入りの風属性魔法使いたちに振る舞えば完璧だ。


「腕の見せどころです!」


 フン、と鼻を鳴らして得意げなマルティナ。

 これに関しては、彼女へ一任した方が良さそうだな。幸い(?)それまで食堂を仕切っていたフランクさんがマルティナに弟子入りをしているので、いい助手となってくれるだろう。


 思えば、マルティナにとっても今回は大仕事だ。

 魔法兵団の信頼を確固たるものとするため、失敗が許されないミッションになる――まあ、あのマルティナが失敗するとは思えないけど。


「それで、ダンジョン農場で育成を始めるハリケーン・ガーリックの収穫はいつ頃になりそうですか?」


 ディアーヌ団長はそわそわした様子で尋ねる。

 やっぱり、気になるのはそこだよな。


「畑で育ててみないと分かりませんが、それほど長い時間はかからないかと」

「……グレゴリー・ライマルの言った通りですね」


 ふっ、と小さく笑うディアーヌ団長。

 きっと、グレゴリーさんから得た情報を信じ切ってはいなかったんだろうな。まあ、確かに、実際に目で見てみないと判断はつかないよなぁ。特に俺のような特殊な能力の場合は。


 ただ、直接披露する場を設けなくても、実績でそれを示せばいい。

 そのために、通常の育成では数ヶ月かかると言われるハリケーン・ガーリックをなるべく早く収穫して魔法兵団に提供する。それが当面の目標となるだろう。



 報告を終えた俺たちは、ダンジョンへと戻ってきた。


「あぁ~、やっぱり家が一番ねぇ」

「本当ですねぇ」


 キアラとシモーネがのほほんとした口調で言う。

 それは「あるある」だよな。長い間、自分の家から出ていて帰宅すると、その良さが染み渡るんだよなぁ。


 ――っと、あんまりのんびりもしていられない。


「農場のスペースは……この辺でいいかな」

「なんじゃ? もう仕事を始めるのか?」


 俺が竜樹の剣を手にして周辺の様子を観察していると、ハノンがやってきてあきれ気味にそう告げる。


「長旅で疲れておるじゃろ?」

「まあ、疲れていないといえば嘘になるけど……なんていうか、ジッとしていられないんだよ」

「困ったタチじゃない」


 ハノンは苦笑いを浮かべる。

 でも、その裏には「仕方がないな」というあきらめもあるようだ。彼女とも結構長い付き合いだし、俺という人間がどういう性格をしているか、察しがついているのだろう。


「じゃが、無理は禁物じゃぞ。肝心なところでダウンしてしまっては、元も子もないからのぅ」

「…………」

「なんじゃ、その顔は」

「いや……ハノンからそんなアドバイスが聞けるなんて……」

「失礼なヤツじゃな!」


 おっと。

 あまりにも予想外だったので思わず本音が漏れてしまった。それが原因でハノンは拗ねてしまったが――本気で怒っているわけじゃなさそうだ。


 さて、ありがたい助言をしっかり守るためにも、とりあえず今日のところは新しい畑の場所を決めるくらいにとどめておくか。

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